クールな社長の甘く危険な独占愛
「お、おかえりなさいませ」
さつきは頭を下げた。
「ああ」
社長が言うと、昌隆が驚いて後ろを見上げる。
「しゃ、社長、あの、実家でお世話になっている……柴山さんです」
「そうか」
抑揚のない受け答え。
何を考えているのだろう。
肝が冷える。
「昌隆くん、この方は今勤めている会社の社長で……お隣に住んでいらっしゃって……」
昌隆が面食らったような顔をする。それから「長尾がお世話になっております」と頭を下げた。
「じゃ、じゃあ」
さつきは昌隆の背中を押すように、玄関の中へ入れる。
社長が何か仕掛けてくる前に、視界から消えよう。
「失礼します」
さつきは頭を下げて、扉を閉める。それから安堵のため息をついた。
「さつきちゃん?」
玄関の中で、昌隆が訝るような顔をする。
「ご、ごめんなさい。慌てちゃって。どうぞ上がって」
さつきは昌隆を促した。
社長、何も言ってこなかった。
安堵とともに、一抹の寂しさ。
なんだろう、これ。
邪魔されなくて、よかったはずなのに。
さつきは漠然とした不安感を胸の奥に押し込めて、昌隆にお茶の用意を始めた。