クールな社長の甘く危険な独占愛
「俺は今まで、さつきちゃんの意思を尊重してきた。大学卒業したら。少し働いたら。お金を貯めたら。『いつ帰る?』って聞いても、濁すばかりで……」
「ごめんなさい」
さつきは手を膝の上で握りしめる。
「俺は、師匠との約束がなくたって、さつきちゃんと結婚したいんだ」
昌隆が言う。
「あの夜が幻だったなんて思いたくない」
さつきは昌隆の言葉を受け入れなくてはいけない。
そうやってこの何年か、自分を必死に抑えてきた。
周りを見ず、誰かに恋などせず、静かに家庭に入るために。
『はい』といえばいい。
たった一言。
でも。
そこにチャイムがなって、二人の間に流れる空気が弾けた。
二人ともはっと玄関の方を見る。
「ちょっと……ごめんなさい」
さつきは当惑する昌隆をおいて、玄関に走った。
「まだあいつ、いる?」
着替えを済ませた社長が立っていた。
「……はい」
なぜか救われたような気持ちになる。
「あいつ、今日、ここに泊まるのか?」
「……わかりません」
さつきを見つめる瞳。全部を見透かされているような気がする。
「挨拶しておく」
社長はさつきに断りなく、玄関を上がった。