クールな社長の甘く危険な独占愛

「俺は今まで、さつきちゃんの意思を尊重してきた。大学卒業したら。少し働いたら。お金を貯めたら。『いつ帰る?』って聞いても、濁すばかりで……」
「ごめんなさい」
さつきは手を膝の上で握りしめる。

「俺は、師匠との約束がなくたって、さつきちゃんと結婚したいんだ」
昌隆が言う。

「あの夜が幻だったなんて思いたくない」

さつきは昌隆の言葉を受け入れなくてはいけない。
そうやってこの何年か、自分を必死に抑えてきた。
周りを見ず、誰かに恋などせず、静かに家庭に入るために。

『はい』といえばいい。
たった一言。
でも。

そこにチャイムがなって、二人の間に流れる空気が弾けた。
二人ともはっと玄関の方を見る。

「ちょっと……ごめんなさい」
さつきは当惑する昌隆をおいて、玄関に走った。

「まだあいつ、いる?」

着替えを済ませた社長が立っていた。

「……はい」
なぜか救われたような気持ちになる。

「あいつ、今日、ここに泊まるのか?」
「……わかりません」

さつきを見つめる瞳。全部を見透かされているような気がする。

「挨拶しておく」
社長はさつきに断りなく、玄関を上がった。

< 70 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop