クールな社長の甘く危険な独占愛
「明日の夜、また話をしよう」
昌隆が言うと「悪いな、社宅は部外者は基本的に禁止なんだ」と社長が言葉をかぶせた。
「あ、そうでしたか。すみません。じゃあ、外で」
昌隆は首をすくめる。
木製の自動扉が開くと、緑の香りと排気ガスが混じる風が流れ込む。
昌隆は不安そうな顔を隠そうともせず、「失礼します」と言って夜道に歩き出した。
胸がつぶれそう。
さつきはとっさに昌隆に駆け寄ろうとしたが、社長の手がさつきの腕をぐっと掴んで、引き止める。
さつきは腕の痛みに顔をしかめた。
「帰るぞ」
社長はそう言うと、さつきを引っ張りエレベーターに乗せる。
なぜか社長は不機嫌そうで、さつきは地雷を踏まないようにだんまりを決め込んだ。
エレベーターの低いモーター音。
蛍光灯が白く光る。
実家へ帰らなきゃいけない。
覚悟はできていると思っていたが、そうでもなかったようだ。
心は乱れ、昌隆に対して、申し訳ない気持ちばかりが溢れてくる。
「バカみたいだ」
社長が言った。
「……何がでしょうか」
さつきは慎重に尋ねた。
「遺言のために、好きでもない男と結婚するなんて、バカみたいだろう?」
ブルーの長袖シャツに、グレーのデニム。ポケットに手を入れて、鼻で笑うように言った。