クールな社長の甘く危険な独占愛
勝ったり負けたり
一
朝。洗面所の鏡の前で、銀縁のメガネをかける。
今日もまた、社長という役を演ずる。
正直、飽きた。
和茂は髪をかきあげ、自分の瞳を覗き込む。
「あの男とキスしたって、どういうことだよ」
声に出して言った。
俺は、上の上。
あの男は、よくて上の下ってところ。
あの男とのキスは、遊びじゃないってことなのか?
隣の部屋とまったく同じ間取り。ただし角部屋なので右手に窓がついていて明るい。
手前にカウンターキッチン、左手にベッドルーム。
収入の割に地味な部屋だとは思うけれど、あんまり広いのは好きじゃない。自分のせいで社宅に誰も入居してこないことは知っていたが、社員のために引っ越しなんて、最高に面倒臭いじゃないか。
コーヒーメーカーから、香ばしい朝の香りが漂う。
『おもちゃにしないでください』
さつきがあんなに泣いたの、初めて見たな。
カップにコーヒーをなみなみと注いで、すきっ腹にブラックを流し込んだ。
「……おもちゃ、だし」
カップをカウンターに置いて、つぶやく。
「ペットならいいか?」
せっかくベッドから出て支度をしたのに、再びベッドに転がってしまった。
確かに負けるゲームはしない。
今回も絶対さつきの負けだと踏んでた。
女に『つい』キスしたくなるなんてこと、これまでの人生になかったのだから。