クールな社長の甘く危険な独占愛
「メガネ、買ってきてくれるか」
あの社長が、気だるそうにそう言った。
「視力の検査は……?」
戸惑うリカが尋ねる。
「必要ない。これ、伊達だから」
そっけなく言うと、社長室へと入っていく。
「かしこまりました」
リカは、机にポンと置かれた無残なメガネを見つめながら、頭を下げた。
社長室の扉が閉まると、リカが「どうしたんでしょう」と小声で話しかけてきた。
「……そう、ね」
さつきは腫れ上がった目を隠すように、うつむきながら返事をした。
リカは不思議そうにさつきの顔を見る。さつきは一層下を向いた。
社長はさつきの顔を一度も見なかった。
少しは後悔してるのだろうか。
昨日『早く出社しろ』と言いながら、社長はギリギリに出社した。
昌隆を追い払いたかったのだろうか。
社長は遊びのくせに、本気で私の人生を変えようとしている。
やりきれない。
「あんな投げやりな感じの社長、初めてです」
リカが手元のメガネを見ながら言う。
「いつもの、ピリッとした冷たい感じがなくて……メガネ一つでキャラ変えてるとか?」
リカが口を手で覆って、笑いをこらえる振りをした。
本当に、彼女は勘がいい。
今日は、本当の社長が顔を覗かせていた。
メガネが壊れたから?
それとも昨日のせいで?
唇に感じる熱い気配を思い出す。
空気が揺れて、今にも触れてしまいそうになる。
さつきは大きくため息をついた。