彼は黒で彼女は白〜俺様社長の甘い罠〜
「…あの、離してください!この飛行機に乗れなかったら、帰れなくなります」

雪の言葉に、返答は無く、黙ったまま人気のないところまで連れてこられた雪。

…そこでようやく男が振り返った。

「…?!」

雪は驚きのあまり声がてない。

「…強引なことをしたこと、すまない」
「…」

「…離れているなんて無理だ、帰ってきてくれないか?」
「…な、んで」

やっと出た言葉。

「…マーが教えてくれた。この機会を逃したら、もう二度と、白井さんは帰ってこないかもしれないと思った。そう思ったら、じっとなんてしていられなかった」

会いたかった人が、目の前にいる。雪は目を潤ませた。

「…旅館はもう心配ない。だから、俺の傍にいてほしい」
「…黒澤社長」

名前を呼べば、琉偉は、優しく微笑んだ。

その笑みが、雪の頑なな心を溶かしていく。

「…前に一度言ったきり、自分の気持ちは心の中に閉じ込めた。白井さんの負担になりたくなかったから」

自分の気持ちを圧し殺し、ただ雪の為だけに、尽くしてきた琉偉。

それは、痛いほどよく分かった。

「…でももう、今、白井さんを苦しめるものは何もない。だからもう一度、俺の気持ちを言いに来た。

おれは、君を心から愛してる。俺の傍にいてほしい…今までもこれからも、ずっと君を守るよ」

もう、自分のことなんて、何とも思っていないんだろうと、雪は思っていた。

だが、ずっと変わらずに、雪を想い続けてくれていた。

雪は、涙が止まらなかった。
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