彼は黒で彼女は白〜俺様社長の甘い罠〜
「…もう遅いから、家まで送ります」

雪に目線を合わせることなく、そう言うと、零士は雪のカバンを持ち、歩き出す。

「一人で帰れるから」

そう言って、雪はそのカバンを取り返そうとしたが、零士が離してくれないので、結局送ってもらうことになった。

マンションの前で、ようやくカバンを渡された雪は、礼を言い、中へ入ろうとした。

自動ドアが開いた瞬間、零士が雪の肩を掴んだ。

驚いて振り返ると、零士が切なげな顔で雪を見下ろしている。

「…どうしたの?何かあった?」

心配そうにそう言う雪の肩を少し痛いくらいに掴んだ零士。

雪は痛みで顔を歪めた。

それを見た零士はハッとして、肩から手を離した。

「…どうして、兄さんの婚約者なの、雪さん」
「…」

それだけで言い残し、零士はその場を去った。
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