彼は黒で彼女は白〜俺様社長の甘い罠〜
いつまでも見つめられて、雪は、琉偉の目に吸い込まれそうになる。琉偉もまた、雪の目に吸い込まれるように、その顔を近づけた。

…互いの唇が、触れるか、触れないか。そこで、社長室のドアがノックされる。

雪は我に返り、顔を真っ赤にして固まる。琉偉は雪を抱き締めたまま、ドアの向こうに問いかける。

「…誰だ?今取り込み中なんだが」
「頼まれていた資料をお持ちしました」

ドアの向こうにいるのは、課長。琉偉は課長に資料を頼んでいたことをすっかり忘れていた。

ふぅと、小さなため息をつくと、雪の耳に囁いた。

「続きはまた今度」
「///‼︎」

そう言って、雪から離れると、ドアを開け、資料を受け取る。雪は軽く頭を下げると、逃げるように社長室を出て行った。

琉偉は、自分をドキドキさせる名人だなと雪は思った。それと同時に、自分が琉偉に惹かれている事にも薄々気づいていた。

…だから、

雪は、義人にメールをした。

《今夜は行きません…いいえ、もう鮫島さんには会いません》

そのメールの返事は、義人からは無かった。

諦めてくれたのかと思った。

付き合っている時の義人は、本当に紳士で優しくて、どんな時も雪の事を一番に考えてくれていた。そんな義人を雪は心底愛していた。もしもできるなら、義人と結婚したいとさえ思っていた。だが、それは裏切られたのだ。

たった一文のメールによって。
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