彼女の本気と俺のウソ
2.放課後の個人授業
放課後、化学準備室で薬品の点検をしていると、突然入口の扉が開いた。
「氷村先生ーっ! いた!」
姿を見なくても誰だか分かる。俺は礼儀に厳しい学校の教師として、一応注意してみる。
「こら。ノックと挨拶は?」
堤は首をすくめて「失礼しまーす」と言いながら扉を後ろ手で閉め、笑顔で駆け寄ってきた。
「走るな。ここは劇薬もいっぱいあるんだぞ」
両手を腰に当て、堤は胸を張って言う。
「愛があれば劇薬なんて怖くないのよ」
何が愛だ。思わずため息が漏れる。
いつも化学は赤点追試組だった堤が、覚えているのか気になったので、ちょっと実験してみる事にした。
「劇薬が怖くないなら、おもしろいものを見せてやろう」
俺は薬品棚から、二つの薬ビンを取り出して堤に見せた。
「塩酸と水酸化ナトリウム、どちらも劇薬だ。知ってるな?」
「うん」
「この二つを混ぜ合わせたら、何が出来るかわかるか?」
「うーん」
堤は薬ビンを見つめたまま、うなった。少しして得意げに答える。
「劇薬と劇薬で超劇薬」
思わず吹き出しそうになる。まさかとは思ったが、やはり覚えていないようだ。結構インパクトのある実験なんだが……。
「じゃあ、実際に混ぜてみよう。ここじゃ危ないから、向こうに行こう。戸を開けてくれないか」
「うん」