愛は世界を救えるか
第1章
池袋西口を出て左手の信号を渡り、バス停がいくつか続く道を真っ直ぐ進むと大手ファストフード店が見える。そこの信号も渡り200mほど進んだ先に羽崎のオフィスはあった。
民間SP会社として構えており、主な仕事は、依頼人のボディーガードや
稀に、その仕事内容に伴い探偵業のような事もする。
羽崎の経営するその会社は社員はさほど多くはない。
羽崎を含め、男女合わせて6名で時と場合に応じて相手の要望に合った社員を派遣していた。
もちろん民間であるため、一国の大統領だとか、とある国の王族だとか、そんなVIPを相手にする会社ではないが、それなりの業績は上げているためリピーターや常連は多い。
最近では創設時からの顧客である今は現役を引退した大手電機メーカーの元会長からの依頼がガードマンとしての仕事ではなく、話し相手のようなものになっていたりする。
もちろん依頼人の護衛は大前提だが、それ以外の仕事もよっぽど的外れなものでない限りは受けることにしてるのだ。
SPという仕事は接客業といってもいい。
3階建ての赤レンガ造りの建物で、オフィスは2階にある。
ちなみに1階はインド人がやっている焼きたてのナンが出てくるかなり美味いカレー屋だ。
ここのマトンカレーが絶品で初めて食べた時はもう二度とレトルトカレーは食べられないなと確信したほどだった。
そして3階にはなんとも胡散臭そうな水晶占いの店がある。胡散臭そうなんて失礼な物言いかもしれないが、まずそこの占い師を見たことがない。それに表に看板があるわけでもなく、営業しているのかしていないのかも分からない状態で、職業柄怪しいなと気になりつつも、いまの所とくに害はないのでこちらからは干渉しないことにした。
羽崎は階段を登り、玄関の扉を開けながら「おはよう」と中を見回していった。
「おはようございます、羽崎さん」
パソコンの画面から羽崎に顔を向け挨拶を返したのはこのオフィスで唯一の女性スタッフである菜々子だ。
「お、早いね」
「今日は午前中から依頼者が来ますからね」
「あー、わざわざ俺を指名してきた人か」
波崎は着てきたジャケットをポールハンガーに掛け、うーん、と背伸びをする。
今日も紺のスーツパンツに白のタートルネックのセーターで割とラフな格好だ。
外は寒いが、室内は暖房のおかげで暖かい。