②オオカミさんの煩悩 部下に恋したエリート課長
「あと1錠」
箱に書かれた数を確認し、同じ動作を試みる。
「やぁっ…ん」
口内に侵入した人指し指を、チュッと吸い上げ、錠剤を絡めとった。
「もうっ、何するんですかっ」
耳まで真っ赤にして怒る顔に、ボンヤリと微笑んだ。
「バ~カ。お前が妙な真似をするからだ」
…男の一人暮らしの家で、少し無防備に過ぎやしないか。可愛い声、出しやがる。
ま、今日はさすがに辛いし、このくらいにしといてやろう。
彼女はプンプン怒りながらも、俺に水を汲んで渡すと『飲んで寝てくださいね』と、念を押し、帰っていった。
…チャンスだったのにな。
どうやら俺は、もう少しこのハラハラするような胸の傷みに付き合わなければならないようだ。
まあ、でも。
このモタモタやモヤモヤを受け入れて、楽しむぐらいが、男の“寛容さ”ってもんなのかも知れない。
(おわり)