二十年目の初恋
休日 8
しばらく車を走らせて悠介が駐車場に車を入れた場所は、誰もが知っている有名なジュエリーショップだった。
「えっ ?」
私が思わずそう言うと
「エンゲージリングを買いに来たんだよ」
「でも……。いいよ。高いし、私、指輪あんまりしないし」
「これはただのプレゼントじゃないんだよ。優華と俺が結婚の約束をした証しなんだから受け取って欲しい。優華の気に入った物をプレゼントしたいから」
「悠介……」
「さぁ、行こう」
お店の中に入ると色とりどりの素敵な宝石があちこちで輝いている。どれもこれも煌びやかで眩しいくらいに美しい、とても華やかな空間。
私なんかが着けたら、もったいないよ。宝石が泣くような気がする……。もっと上品で素敵な大人の女性が着けるべきだよ。そんなことを考えながら店内を見ていたら私の目に留まったのは……
「あの、これ見せていただけますか ?」
それは綺麗な一粒ダイヤが光り輝くプラチナのプチネックレス。
「はい。こちらでございますね」
とベルベットのトレイに乗せてくれた。
「気に入ったの、あったのか ?」
と悠介。
でもトレイに乗ったプチネックレスを見て、えっ ? って顔をした。
「指輪じゃなきゃいけないかな ? 私、指輪は苦手なの。いいなと思って着けてても何日かすると気になって外しちゃうの。でもこれならずっと着けていられる。どんなお洋服にも合わせられるし。高いエンゲージリングを買って貰っても結局、仕舞ったままじゃ、もったいないもの。肌身離さず着けていたいの。いけない ?」
すると店員さんが
「とても素敵だと思います。確かに私も仕舞ったままですから。結婚して二十年になりますけど数える程しか身に着けていません」
「ありがとう」
なんだか嬉しかった。
「優華がそうしたいのなら俺はいいよ。いつも着けていてくれた方が嬉しいかもしれないな」
「着けてみられてはいかがでしょうか ?」
店員さんがプチネックレスを着けてくれた。
「とても良くお似合いですよ」
シフォンのブラウスの少し大きめに開いた襟元に輝くダイヤ……。
「いいね。良く似合うよ。そうだよな。優華の気に入った物がきっと一番良いんだと俺も思うよ」