二十年目の初恋
雨の日に 3
「それもあるかもしれないけど何だろう……。穏やかな表情になったような気がするのよね。彼と上手くいってるってことなのかしらね」
「はい。お陰さまで」
「そう。そのせいね。幸せそうな顔してるわ」
「そうですか ? 自分では分からないんですけど」
「元々美人だけど、どう言えばいいのかしらね。自分のテリトリーには誰も入れない寄せ付けない頑なさみたいなものがあったのよね」
「そうかもしれません。もう裏切られるのはたくさんだって、そう思ってましたから。出来ることなら誰とも関わりたくないって……」
「離婚の理由、聞いてもいいかしら ?」
「主人に女の人が出来て、その人から電話があったんです。私に彼と別れてくださいって泣いてました」
「あなたは知っていたの ? 彼女の存在を」
「いいえ。全く疑いもしませんでした」
「じゃあ、離婚はあなたから切り出したの ?」
「その電話から半年経っても主人は私には何も言いませんでした。でも偶然見てしまって。二人がまるで夫婦か恋人同士のように幸せそうなのを」
「そう。それは辛かったわね。それであなた家を出たのね。確か半年くらい前よね。引っ越したって聞いたのは」
「はい」
「まさかね。そんなところまで同じだとは思わなかったわ」
「えっ ? 同じってどういうことですか ?」
副学長はゆっくり話し始めた。
「今まで、ほとんど誰にも話したことないのよ。ずっと昔、結婚してたことがあってね、たった三年だけど。彼は私の勤めていた大学とは違う大学で講師をしていたの。幸せな時もあったのよ。短かったけどね。ある日、私のところに二十歳の女子学生が来てね。私は家の大学の学生だと思い込んでて。そしたら彼の大学の学生だったの。彼女は私に言ったわ。私の方が先生を幸せに出来る。だから別れてくれって。驚いたわ。教え子と付き合ってたなんてね。私も全く気が付かなかった。私たちは上手くいってるとばかり思っていたから。その日から彼は帰って来なくなった。こんな私でも泣いたのよ」
「そんな、よく分かります。私もどれだけ泣いたか」