二十年目の初恋
雨の日に 10
「うん。すっかり」
「良かった。今朝は何が食べたい?」
「昨夜の酢豚、残ってる?」
「まだ少しあるけど、朝から酢豚?」
「美味しかったよ。スープも。優華の料理で疲れなんて吹き飛ぶよ」
「じゃあ、温めて来ようか?」
「まだ早いから、もう少しこうしてて……」
悠介を抱きしめて少しだけ母親の気分になっていた。悠介ってマザコンだったのかしら?
いや……。世の中にマザコンでない男性はいないと思う。この世に生まれて初めて出会う女性は母親なんだから。程度の差は有るにしても……。
いかにも母親べったりで何にも自分で決められなくて、いい歳をして『ママ』なんていうのは論外だけど……。
母親に対して優しく出来る男は素敵だと思う。きっと恋人なり奥さんなり自分のパートナーに対しても優しく出来るはず。そう信じているけれど。何にでも個人差というものがあるからなぁ……。
「優華」
「うん? なに?」
「男ってさ、案外弱い生き物だったりするんだ。仕事で失敗したりして凹んだり、意外と立ち直りに時間が掛かったり。そういう弱いところがあるから男には体力とか腕力とか力を与えてくれたんだと思う。女性は体力や腕力は……まあ時々強い人もいるけど。そういう力は持っていなくても弱そうに見えるけど根本的に強いのは女性だと思う。だから芯の強さを持った女性に男は惹かれるし惚れるんだと思う。そういう女性に優しくされると……。男は単純な生き物だから自分の持ってる力以上に頑張れるんだ」
「悠介……何かあったの?」
心配になって聴いてみた。
「何もないよ。 仕事に悩みは付き物だし、優華が居てくれるから俺は頑張れる。さぁ、きょうも仕事、頑張るぞ」
「うん。じゃあ、酢豚温めるね」
朝から酢豚と中華スープで、ご飯をしっかり食べて悠介はいつものように凛々しいビジネスマンに変身して頼もしい笑顔で元気に出かけて行った。