二十年目の初恋
記憶 1

 昨日は雨だったから……。梅雨時に当たり前だけれど。きょうは気持ちまで明るくなるくらい朝から良いお天気。綿毛布とシーツとバスタオルと昨日は洗えなかった物を洗ってベランダに干した。

 ひとまず午前中の家事は片付いてアイスレモンティーを入れてエアコンも入れないで自然の風に部屋を開け放った。頬を撫でる風が爽やかで心地好い。

 ふと今朝の悠介を思い出して
「本当に何もなかったの?」ひとり言。

 いつもポジティブな悠介が……。よっぽど大変な仕事でも抱えているのかな? 気になるけど仕事のことは聞いても分からないし。せめて私は悠介が喜んでくれる美味しい晩ご飯でも作るかな。

 レモンティーを飲み干して。さぁ、買い物に行こう。

 きょうのお昼は美味しいパン屋さんのパンと、お肉屋さんのコロッケ。
 幸せなことだけを考えて生きていこう。ただ前向きに。

 これから積み上げていく悠介との時間の中で、きっと私はいつも笑っていられるはずだから。生命の底から幸せを実感して……。

 ジーンズに着替えて戸締りをして、携帯、ハンカチ、お財布、家の鍵を持ってスニーカーを履いて。きょうは日傘が必需品。空が綺麗に晴れてる。そんな単純なことで嬉しくなる。

 もしかしたら私は世界中で一番幸せかも……。そんなふうに思えることがとても貴重で掛け替えのない大切なこと。きょうの青空のように輝いていたい。愛する人の傍で笑っていたい。心からの笑顔で。

 パン屋さんから焼きたてのパンの香ばしい香りが……。それだけのことで幸せを感じられる今の自分が好き。パンをたくさん買って、後は八百屋さん、魚屋さんで買い物。そして美味しいコロッケも買ってマンションに帰る。

「ただいま」

 野菜、お魚を冷蔵庫に入れて。さぁ私はお昼にしよう。濃い目のダージリンはストレートで大きなグラスに氷をいっぱい入れて。

「さぁ食べよう。いただきます」

 揚げたてのコロッケ、サクサクで美味しい。お肉屋さんはもう私のお気に入り。りんごとカスタードクリームとレーズンの入ったフワフワパン。シナモンの香りが堪らない。

「うん。美味しい」

 またお気に入りが増えた。悠介が好きだって言ってたカレーパンとメロンパンも買って来た。この前は二つとも悠介に食べられたから……。カシスのジャムに、粉砂糖たっぷりのデニッシュと甘い香りのミルククリームの入ったフランスパン。まだまだ全商品制覇には時間が掛かりそう。美味しいお昼に満足して
「美味しかった」

 悠介は今頃どんなお昼ご飯食べてるのかな? 仕事、頑張ってね。 美味しい晩ご飯、作って待ってるから。

 明るい陽射しの良く晴れた午後……。お洗濯物も気持ち良く乾いているみたい。

 まだ手付かずの引っ越し荷物を整理しながら午後を過ごす一人の時間。だけど私は一人ぼっちじゃない。いつでも悠介を感じられるから。

 夢中で片付けていたら、もうこんな時間。急いで洗濯物を入れて、お気に入りのシーツでベッドメイキング。綿毛布も掛けてピローケースも。お日様の香りのベッド完成。

 さてと晩ご飯のメニューは? さっき魚屋さんでサバを買って来た。竜田揚げにするつもりで。あとは、お味噌汁、きゅうりとタコの酢の物、トマトのサラダかな? 晩ご飯の支度を始めるのには、まだちょっと早い。

 もう少し、片付け途中の引っ越し荷物を整理しよう。和室に戻って、まだ開けてない引っ越し屋さんのダンボール。冬物の洋服はコートやスーツ以外は、このままクローゼットの隅に置いて。
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