二十年目の初恋
記憶 2
あとこれは? 好きで集めた香水たち……。優しくて甘い爽やかな香りが好き。色艶を振り撒く様な濃厚な香りは苦手。もう廃盤になっている大好きな香りや、お土産でいただいてハマッタ香り。歴史ある有名な香りたち。すべてが二本目三本目だったりする。
今よく使う香りは霧のような優しい甘さのある香り。紅茶の香りも好き。食事の時も邪魔にならない気がする。トワレのボトルを眺めているだけで気分が落ち着く。私にとっての精神安定剤なのかな? 自分でも知らないうちに癒されてアロマテラピーになっていたのかもしれない。
さてとそろそろ食事の支度を始めないといけない時間。悠介が「お腹が空いた」って帰って来る前に。メニューはもう決まっているから、ご飯を炊いて、お豆腐とワカメとネギのお味噌汁。トマトのサラダを冷蔵庫に入れて、きゅうりとタコの酢の物も。あとは竜田揚げ。サバを三枚におろして中骨を取って、ひと口サイズに切って醤油と生姜と少しネギのみじん切りを入れて浸け込む。そこに卵と片栗粉を入れて混ぜて油で揚げると出来上がり。
時計を見ると七時半……。そろそろ悠介が帰って来る時間。カウンターに、お茶碗、お箸を並べて、なんとなくカウンターに腰掛けた。
八時を過ぎ八時半になっても、まだ悠介は帰って来ない。仕事、忙しくて大変そうなこと言ってたから遅くなるのかな? 竜田揚げ冷めちゃった……。
テーブルに携帯が置いてある。ソファーに座って携帯を見た。メールも着信記録もない……。
急に不安になった。思い出したくない嫌な記憶。また繰り返すの? ううん。そんなことない。悠介は彼とは違う……。
それから一時間が経った。まさか事故とか? だんだん不安になる。電話してみようか? でもまだ仕事中なら……。
すると玄関の鍵を開ける音。ドアが開いて
「ただいま」
悠介の元気な声。
私はソファーから立ち上がれずに居た……。
「ごめん。遅くなって」
悠介が私の傍まで来て
「はい」
差し出されたのは紅いバラの花。
「どうしたの?」
「仕事、上手くいったんだ。大手の代理店と競り合ってて、家の会社と契約してくれるとさっき連絡が入った」
「そうだったの……」
「ごめんな。連絡も入れないで心配したか?」
「心配なんか……してないよ」
そう言って立ち上がったら涙が零れた。
「優華、ごめん」
そう言うと悠介は私を抱きしめた。