二十年目の初恋
記憶 3
「気にしないで、大丈夫だから……」
「優華、ごめん。嫌なこと思い出させて。これから忙しくなるかもしれないけど、いつでも優華のこと思ってるから。優華の作ってくれる食事、遅くなっても帰ってから食べるから」
「仕事の付き合いで食事することだってあるでしょう? 遅くなるって一言メールして。それで安心出来るから」
辛かった頃を思い出したんだろう。優華は少し震えていた。俺は優華に一番してはいけないことをしたんだな……。
「これからは、ちゃんとメール入れるから。本当に、ごめんな」
「ううん。食事は? まだなんでしょう?」
「うん。腹ペコ。きょうは何?」
「サバの竜田揚げ。冷めちゃったから温めるね」
お味噌汁と竜田揚げを温めて、冷蔵庫からサラダと酢の物を出して
「いただきます。うん。竜田揚げ美味いよ」
「そう? 良かった。あっ、悠介、何か嫌いな物あった?」
「特にないと思うけど。家の母さん、そういうことには厳しかったから」
「そうだったね。お茶の先生だから、お行儀にもうるさかったよね」
「そうそう。きっと今頃クシャミしてるよ。おかわり」
*
悠介はいつものように、しっかり食べてくれた。後片付けも……。
「悠介、疲れてるんだから休んでて」
「大丈夫だよ。これくらい。優華の作る美味しいご飯に感謝してるんだから」
カウンターの上、背の高いグラスに水を入れて紅いバラの一輪ざし。
「バラ、ありがとう。綺麗」
思わず笑みが零れる。
「会社の近くに車で花を売りに来てて綺麗で可愛かったから、優華みたいに」
「私、こんなに綺麗じゃないよ。可愛くもないし……」
「そんなことないよ。世界中で一番綺麗だよ。ごめんな。優華の気持ち、もっと考えるべきだった。昔を思い出させるようなことしたんだよな。本当にごめん」
「仕事、忙しいんだから遅くなるのは仕方ないよ。分かってるのに、ごめんね」
私から悠介の胸にもたれかかったのと悠介が私を抱き寄せたのと、ほとんど同時だった。悠介の胸に顔をうずめて心が休まるのを感じた。
「もう少しこうしてて……」
「いいよ。優華の気が済むまで」
悠介の腕の中は一番安心出来る私だけの居場所。そっと顔を離すと悠介に唇を塞がれていた。悠介のキスは優しさが伝わってくる甘いキスだった。唇が離れて
「さぁ、シャワー浴びて寝ようか」
その夜は悠介の胸に抱かれて、とても穏やかな気持ちで眠りに就いた。