二十年目の初恋
お盆休み 5
「当たり前だろ。優華、家事も手際が良いし料理も上手いし。あんなに美味しい料理を食べなかった前の旦那って、どんな奴なんだと思うよ」
「気難しい人だったみたいね。優華ちゃんのお母さんから少し聞いたけど……」
「そいつが優華を傷付けた分まで俺が大切にしようと思ってるよ」
「それでこそ俺の息子だ。優華ちゃんは娘みたいなもんだからな。小さい頃から本当に可愛かった」
「お父さん、女の子が欲しかったのよね。悠介のお嫁さんになってくれるんだから、もう娘ですよ。優華ちゃんは」
「そうだな。亜美さんは……どうも馴染めなかったが」
「亜美のことはいいよ。再婚したらしいよ。かなり歳の離れたお金持ちと」
「そうか。やっぱりあの子は、お金が全てだったんだな……」
「仕方ないわよ。育った環境は簡単には変えられないものなのね。でもいつまでも一人で居られるよりは良かったんじゃないの?」
「そうだな。あの子にはあの子なりの幸せがあるんだろうから」
「それより悠介、早く孫の顔を見せて貰いたいわね」
「母さん、それ優華には言わないでくれよ」
「そうね。赤ちゃんは授かりものだから。焦ってどうにかなるものでもないしね。気長に待つことにするわ」
「そうしてくれると助かるよ。優華の負担になっても可哀想だから」
*
翌朝……。優華は久しぶりに実家の自分の部屋で目覚めた。う~ん。何だか学生時代に戻ったみたいね。年齢もついでに戻ってくれないかしら……無理か。二階の部屋から下に降りて行くと美味しそうな匂い。
「あら優華、早いのね。おはよう」
「おはよう。やっぱり、お母さんのお味噌汁の匂いは良いよね」
「悠介さんに作ってあげてるの?」
「もちろんよ。ご飯だったりパンだったりするけどね」
「朝はちゃんと食べさせてあげないと男の人は仕事に差し支えるのよ。持っている力を充分発揮出来ないものよ」
「悠介、力仕事じゃないけど……」
「能力っていう意味よ」
「分かってるわよ。お母さん、ご飯作って貰えるって贅沢なことよね。昨日から、すごく贅沢してる気分だわ」
「何言ってるの。顔、洗ってらっしゃい」
「はい。あっ、お父さん、おはよう」
「おはよう。優華が朝、家に居るのは久しぶりだな」
「そうだね。昨夜の白ワイン美味しかったよ。また一緒に飲もうね」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
「顔、洗って来ます」