二十年目の初恋
秋の日に 3
「どういうのがいいかな? やっぱりダウンがいいのかな」
と悠介。
「そうね。休日用でいいのよね?」
悠介に似合いそうな物は……。
「そうだな。仕事は車で移動だから。ウールのハーフコートは去年買ったばかりだしトレンチコートも持ってるしステンカラーのも」
「じゃあ、カジュアルスタイルでいいのね。それならフェイクスエードのハーフコートも素敵だけど」
「フェイクってことは本革じゃないってこと?」
「うん。今はフェイクも良い物があるのよ。特にスエードなんかは柔らかいし手触りも良いし。何よりもお手入れが楽だから。これなんかどう?」
モカブラウンのフェイクスエードのハーフコートを見せた。
「うん。いいね。着てみようかな?」
「その上にはおるだけだから、ここで着てみて」
コートをハンガーから外して悠介の後ろから着せた。鏡を見て悠介がポージング?
「どう? 似合うかな?」
背の高い悠介は何でも着こなせるんだと感心する。
「うん。素敵だよ。ダウンより大人っぽいしサイズも丁度良いみたいね」
「じゃあ、これにするよ。支払いして来る」
「うん。ここで待ってるから」
何気なく目の前の商品を見ていたら
「優華……」
後ろから声を掛けられた。
えっ? 悠介じゃない。誰? 振り返るとそこには別れた主人が立っていた。
「あっ、ごめん。優華なんて呼んで。元気か? 少し痩せたか?」
「元気よ。とっても元気だから」
私は心からそう思っている。
「ちゃんと話も出来ずにすまなかった。悪いのは俺なのに傷付けたままで……」
「私、感謝してるから別れてくれて。彼女は元気? お腹の赤ちゃんも」
「えっ? どうしてそれを?」
驚いた様子だった。
「いつだったか、このデパートで見かけたの。あなたとマタニティ姿の彼女を」
「そうだったのか。すまない。先週生まれたよ。予定日より早かったけど無事に」
「そう。男の子? 女の子?」
「女の子だ」
「そうなの。おめでとう。奥さんと赤ちゃんを幸せにしてあげてね。泣くのは私一人でたくさんだから」
「申し訳なかった。今更何を言っても償える訳もないな」
「…………」
何を聞いても変わらない。今の状況も私の気持ちも……。
「好きな男は出来たのか? 何だか綺麗になったな。前よりもずっと……」
「私、結婚するの」
世界中でたった一人だけの愛する悠介と。
「そうか。そうだな。こんないい女を周りがほっとく訳ないよな。俺はあれから正直後悔したよ。何で、お前を泣かせてまで、あんな女と……」
「そんな風に言わないで。男なら自分のしたことに責任取るべきでしょう? それから私たちもう他人なんだから何処かで偶然出会っても声は掛けないでね」
「あぁ分かった。 俺が言う資格もないけど幸せになれよ」
十年の間、見せたことの無かったちょっと無理した笑顔だった。