二十年目の初恋
秋の日に 4
悠介が戻って来て
「誰? 知り合いか?」
「ううん。売り場を聞かれただけよ」
私は笑顔でそう答えた。
「さぁ、じゃあ次は優華のコートだな」
「このフロアはもう用はないの?」
「う~ん、新婚さんは新しい下着が要るかな?」
「えっ? だったらついでに買えば?」
男性下着売り場。どうもいまだに慣れない場所。
「う~んと派手なのにしようか?」
「悠介の好きなのにしてよ」
「じゃあ、これとこれとこんなのどう?」
派手……。私は返事に困って黙っていた。
「じゃあ、決まりと。買って来るね」
悠介の洗濯物の中に、あんな派手なのあったっけ?
「お待たせ。次は優華の買い物だよ。なんなら優華も派手な下着買えば?」
そんなこと耳元で囁かれても困る。
「はい。コート買いに行きましょう」
婦人服売り場で……
「私、フェイクスエードのハーフコート持ってるから薄手のダウンコートが欲しいな。ちょっと長めの丈の」
「どんな色がいいの? 赤とかピンク?」
そんな派手な……。お子様じゃないんですけど……。
「ちょっとブルーに近いライトグレーか、モカベージュかな?」
「それ地味じゃない?」
本気で言ってるの?
「何にでも合わせ易いから長く着られるのよ」
「そういうもんなんだ」
何に感心してんだか?
「あっ、これいい」
手に取ったのは水色とブルーグレーの中間のようなカラー。
「うん。綺麗な色だね。 それいいんじゃない?」
試着してみた。サイズも丈もいい。薄手のダウンだから軽いし何より微妙なニュアンスの色が気に入った。
「これにしようかな」
鏡の前で後ろ姿もチェックしながら。
「良く似合うよ。それにしたら?」
「うん。決めた。 お支払いして来るね」
コートを脱いで手に持った。
「俺が買ってあげるよ」
と悠介。
「いいわよ。悠介には充分な生活費貰ってるから。それに来週いっぱい使わせるから覚悟しといてね」
と言っておいた。
「そういうことか……」
悠介は笑っていた。