二十年目の初恋
秋の日に 5
お気に入りのダウンコートも見付けて支払いも済ませて
「優華、あと何か買う物ある?」
「特にないけど……」
「じゃあ、お昼、食べて帰ろうか?」
「そうね。何をご馳走してくれるの?」
「何でもいいよ。優華の好きな物で」
「ニンニク料理の専門店があるんだけど。ガーリックステーキにガーリックライス、ガーリックサラダ、パスタとかもペペロンチーノとかニンニクばかりの」
「いいね。元気になれそうで。来週まで効き目あるかな?」
ボソッと言った。
「えっ? なに?」
「いや、なんでもないよ……」
二人でニンニク料理のお店に入って注文したのはガーリックステーキ、ガーリックサラダとライス。ステーキの上には、これでもかっていうくらいスライスしてカリカリに焼いたニンニクが……。
「美味そう」
と悠介。
「すごいニンニクの量……」
「スタミナ付きそうだ。食べよう」
「これだけニンニク食べたら、この冬は風邪ひかないかもしれないね」
ミディアムに焼いたステーキも美味しくて新鮮な野菜にたっぷりニンニクドレッシングが掛かったサラダも。
「美味かった」
満足そうな悠介。
「うん。元気になった気がする」
「さぁ、行こうか」
お支払いは悠介が済ませて帰りの車の中で
「車で良かったな。バスや電車に乗ったら、そうとう迷惑だよ。これは」
「うん。そうだね。きっと」
二人で笑った。もしも私だけが食べてなかったら凄く気になると思う。マンションに戻って
「ただいま」
「人込みはそれなりに疲れるな」
「悠介、ニンニクでスタミナ付いて元気なんじゃないの?」
「優華も元気だろ? そういえば、お茶しなかったな。コーヒー入れるよ」
ソファーに腰掛けて悠介の入れるコーヒーの香りのする部屋で、なぜだかさっきデパートで会った別れた主人の言葉を思い出していた。
『先週、生まれたよ』……『女の子だ』……。
女の子のお父さんになったんだ。彼女はお母さんに。ずいぶん若いお母さん。たぶん十歳以上は離れていたと思う。
どんな顔をして赤ちゃんを抱くんだろう。世の中にこれ以上の幸せはないって穏やかな優しい顔をして可愛い我が娘を夫婦揃って見詰めているんだろう……。