二十年目の初恋
秋の日に 7
子供が産めるか産めないかで女の価値は決まらない。子供を産むために生きてる訳じゃない。子供を産むための機械じゃないんだから。
当たり前のように妊娠して周りの誰からも祝福されて子供の父親となる愛する人からも望まれて母親になる。
そんな普通の出来事が望んでも叶えられない人だっている。だからって悲観することはない。自分を卑下する必要などない。人間の価値はそんなことで決まらないのだから。大丈夫。私は大丈夫……。
子供が出来なくても悠介と一緒なら幸せに生きていける。悠介の傍できっと笑っていられるはずだから……。
「あれっ? なんだ優華、起きてたの?」
「うん。もう充分眠ったから」
「そうか。晩ご飯出来たよ」
「悠介が作ってくれたの?」
「何だと思う?」
「お昼のニンニクの匂いがまだ残ってて分からない」
「俺も。自分がニンニク臭くて。あれだけ食べたんだから、すぐ元気になるよ」
「うん。元気だよ。もう治ったから」
「無理しなくていいよ。俺、明日も休みだから優華の代わりに何でもするから」
「悠介。ここに来て」
立ったまま私を見ている悠介に言った。
「どうした?」
ベッドの端に座った悠介に起き上がって抱きついた。
「少しでいいの。こうしてて……」
悠介は私をしっかり抱きしめてくれた。
「優華。何かあったのか? きょうの優華、何か変だよ」
「ううん。何もないから大丈夫だから」
「本当に? じゃあ、晩ご飯にするよ。親子丼が冷めちゃうよ」
「えっ? 親子丼を作ったの?」
「前に優華が作るところを見てたから絶対に美味く出来てると思うよ」
「じゃあ、お味見してあげる」
キッチンに行くと確かに親子丼の匂い。悠介が丼を二つ出した。
「私、お茶碗でいいから」
「うん。分かった」
カウンターに大きな丼と小さなお茶碗の親子丼が並んだ。
「本当に親子みたいに並んでる。いただきます。……うん。美味しいよ」
「本当か? じゃあ俺も。うん。優華の作るのと変わらないよな」
「うん。美味しい。これから親子丼は悠介に作って貰おうかな?」
「いいよ。 任せて」
得意顔の悠介が頼もしい。悠介の自慢の親子丼で心まで温かくなって……。
幸せって何でもないことを一緒に喜び合えること。そういう相手と一緒に居ること。だから私は悠介と生涯一緒に居る。