二十年目の初恋
痛み 3
 精肉売り場で
「肉じゃがのお肉は牛? 豚?」

「どっちだったかな? なんとなく牛のような気がする」

 と言う悠介を信じて、牛の薄切り肉を買う。鮮魚売り場で

「奥さん、きょうはサバの良いのが入ってるよ」
 と言われ、仕方ないか……。

 悠介と私が土曜の午後にカート押して食料品買ってたら共稼ぎ夫婦の買い出しにしか見えないよね。納得。

「サバだって」
 と悠介に言うと

「いいね。塩焼き? 味噌煮かな?」

「じゃあ買う?」

「うん」
 と言う悠介に従ってサバ購入。

「もずくが食べたい」

「酢の物?」

「うん」

 なんだか居酒屋メニューみたいと思いながら
「調味料あるの? 味噌とか醤油、酢、塩、砂糖、味醂も……あとお出汁」

「う~ん、たぶん無い」

「分かった。全部買うから」

 全く、どういう食生活してんだか……。男の一人暮らしって。全部一番小さいのをカートに入れた。

「ビールがなかった」
 って悠介は六本パックを二個
「パンも買おう。食パン四枚切り。あと牛乳、ヨーグルト……。優華、何かデザート要らないの?」

「う~ん、じゃあアイスクリーム」

 悠介はパイントを二個カートに入れた。

「そんなに誰が食べるの?」

「優華でしょう」

 男の買い物は豪快というか大胆というか……。

「ところで、お米は?」

「あっ、そうだね。小さいの買おうか」

 お米を入れて、あと卵とハムとお豆腐を追加して、ペットボトルのお茶二本。

「こんなもんかな?」

「何か忘れてたら、また来ればいいよ」

 とお会計。車に積み込んで悠介のマンションへ。


 冷蔵庫に入れるもの、入れないもの、冷凍庫行き、調味料を並べて何かキッチンらしくなった。

「はい。お疲れ」
 冷えた缶コーヒーが飛んで来た。

「ありがとう。……生き返った。冷たくて気持ち良い……」

「もっと気持ち良いことしてあげるよ」

 ソファーに並んで座っていた悠介に唇を塞がれた。あまりディープなキスは好きじゃなかったのに、悠介のキスは魔法にカカッタように、私を自分の意思とは違う、別の何かに変えていく……。


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