二十年目の初恋
秋の日に 9
「優華、体温低いんだろう? それに冷え性?」
「夏の間は大丈夫なんだけど秋になると、すぐに体が冷たくなるの」
「俺が温めてやるから」
「悠介、体温高いよね。何でこんなに温かいのかな?」
「いつも燃えてるからね」
「何に燃えてるの?」
「優華に決まってるだろう。優華は俺の幸せのお守りだから」
「私がお守り?」
「そうだよ。優華を抱きしめてると幸せになれるんだ」
「幸せなのは私の方だけど。悠介に抱きしめられると最高に幸せだって思うの」
「じゃあ今は?」
「すっごく幸せ。このまま死んでも良いくらい……」
「死んだら駄目だよ。一緒に長生きするんだから」
「でも、私、悠介より先に死にたい。悠介の腕の中で抱きしめられて逝くからね」
「えっ? 俺を残して先に逝く気なのか?」
「私が先に死んだら若くて綺麗な人と再婚してもいいからね。天国から見ててあげるから……」
「俺は優華以外の女とは結婚はしないよ」
「どうして? 一人じゃ、きっと寂しいよ」
「優華との思い出がいっぱいあれば寂しくないよ」
「じゃあ、思い出たくさん作って生きていこうね。今、こんな話をしてることも思い出になるんだよね」
「そうかもな」
「悠介、私……。悠介に話してないことがあるの」
「どんなこと?」
「昨日……。デパートで別れた主人に会ったの」
「もしかして俺が知り合いかって聞いた?」
「うん。後ろから声かけられて振り向いたら……」
「そうだったのか」
「離婚のきっかけになった彼女、赤ちゃん生まれたんだって」
「そうか。優華、それで昨日、変だったんだ」
「なんか負けた気がしたの。女として……。愛する人の子供を産むって女として最高の幸せなんだろうなって。もちろん別れた主人を愛してる訳じゃないけど」
「優華、前に聞いたよな。赤ちゃん出来なくても構わないかって」
「うん。あの日、見かけたの。マタニティ姿の彼女と主人を。私は十年一緒に居ても出来なかった。彼女は一年と少しで赤ちゃんが出来て。だから私はきっと妊娠出来ない体なんだろうってそう思ったの。悠介に後悔させるようなことしたくなかったから……」
「俺が優華のマンションに泊まった日だったよな。優華、泣いてただろう。目を真っ赤に泣き腫らしてたのに嘘吐いて」
「だって……」
「これであの日、優華が泣いてた理由が分かったよ。そういうことだったのか。あの時も言ったと思うけど子供が欲しくて優華と結婚するんじゃないから。優華と一緒に生きていきたいから傍に居て欲しいから。優華さえ居てくれたら俺は充分幸せだから。ついでだから話すけど……。俺の別れた奥さん、かなり歳の離れたお金持ちと再婚してるから」
「そう。そうだったの。じゃあ、みんな幸せなのね。良かった」
「優華、一番辛い思いをしたのにそんなふうに言えるのか?」
「今がすごく幸せだから言えるの。悠介が居てくれるから」
「優華は俺が必ず幸せにする。一生懸けて。生まれ変わっても、またきっと見付けるから」
生まれ変わっても、また悠介と出会って愛し合う。そう考えたら死ぬのも怖くなくなる。もちろん今の私の人生を全うしてからだけど。
日曜日の遅い朝……。温かいベッドの中で悠介の胸に抱かれて、そんなことを考えていた。