二十年目の初恋
秋の日に 10
「優華、そろそろ起きようか?」
おでこにキスされた。
「うん。そうね。旅行の荷物を作らないとね」
「そうだな。きっと寒いから暖かい服を持って行かないとな。優華も」
「うん。分かってる。私、冷え性だから寒いの駄目だし」
「そうだ。ホテルのバーで、お酒飲めるような服も持って行こうな」
「えっ? 温泉のバーで?」
「お洒落して出掛けるのもいいだろう?」
「いいけど、どんなのにしようかな?」
「センスの良い優華に任せるから」
「悠介はスーツ持って行くの?」
「そうだな。俺はシャツとニットでもいいけどな」
「うん。悠介に任せる。ところでどこの温泉に連れてってくれるの?」
「ナイショ。行ってからのお楽しみだよ」
「どうして教えてくれないかな? まあいいけど……。悠介の行く所ならどこでも付いて行くから」
「うん。よろしい。期待は裏切らないつもりだよ。さぁ、朝ご飯にしよう。俺コーヒー入れるから」
「じゃあ、チーズトーストでも焼こうかな」
あったかいコーヒーと焼きたてチーズトーストの遅い朝食を済ませて暖かい部屋で旅行の荷物を作ったり、まったりした日曜日を二人で過ごした。
週が明けて月曜火曜水曜と悠介の仕事は忙しく帰りの遅い日が続いた。
そして木曜日……。
「ただいま。やっと仕事片付いたよ。明日は早く帰れるから」
「おかえりなさい。お疲れさま」
「土日も出勤になりそうな忙しさで、ちょっと慌てたよ」
「じゃあ、休めるのね?」
「勿論だよ。俺たちには大切な日だろう? 会社には結婚するなんて言ってないから、どうしようかと思ったよ」
「会社の皆さんには事後報告にしないと……。ご心配掛けたら申し訳ないもの」
そして金曜日の朝……。朝食も済んで身支度も整えた悠介が
「いってくるよ。優華」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「きょうで最後だな。俺たちの同棲生活」
「同棲ねぇ。正確に言えばそうだけど……」
「優華は、もうとっくに俺の奥さんだもんな。今更だよな」
「う~ん。でもきょうまでは恋人気分?」
「明日から生涯、俺の奥さんだよ」
「うん。悠介が嫌じゃなきゃね」
「俺は生涯、優華を愛し続けるよ。約束する」
朝から抱きしめられて唇を塞がれた……。
「あっ、口紅付いてる」
「えっ? どこ?」
「嘘。まだメイクしてないよ」
「優華はスッピンでも綺麗だよ」
「朝からお世辞?」
「俺はいつでも本気」
「早く行かないと遅刻するよ」
「うん。今度こそ、いってきます」
「いってらっしゃい」