二十年目の初恋
結婚 3
「はい。ブーケ。胡蝶蘭で作って貰ったのよ」
「お母さん、ありがとう」
「純白のドレスに良く似合うわ」
「優華ちゃん、本当になんて綺麗な花嫁さんなんでしょう」
涙が滲んで今にも零れそうだった。
「ほらほら、花嫁さんは泣かないの。メイクさんを困らせるわよ」
「おばさん。あっ、きょうから、お母さん……」
「ありがとう、嬉しいわ。優華ちゃんに、お母さんって呼んで貰えるのね」
「優華。綺麗過ぎて言葉が出ないよ」
「お父さん……」
「優華ちゃん。こんなに綺麗で悠介には勿体ないな。おじさんのところに、お嫁に来て貰いたいくらいだよ」
「おじさん、いえ、お父さん。私はさっき悠介の妻になりましたから」
「それは残念だったな」
「もう、あなたには私が居るでしょう?」
「仕方ないなぁ。お前で我慢するとしようか」
「まぁ、酷い……」
みんなで笑って、とても和やかな雰囲気だった。
「撮影の準備が出来ましたので、こちらへどうぞ」
と言われてスタジオに入った。
カメラマンの方が
「これは美しい花嫁さんですね。スタッフから聞いていた通りだ。張り切って素晴らしい写真を撮らせていただきます」
二人で寄り添って一枚、別のポーズでもう一枚。
「お二人のご両親様、どうぞ」
六人の集合写真。これはもう和気藹々、笑顔でポーズ。
「はい。お疲れさまでした。もし宜しかったら、もう何枚か撮らせていただけませんか?」
「えっ?」
「こんな綺麗な花嫁さんは滅多にいらっしゃらないです。もしお許しいただけるのでしたら当社のパンフレットやポスターに使わせていただけたらと」
「いえ、そんな、私なんかでは……」
「優華、撮って貰ったら? 良い記念になると思うけど」
「そうよ。優華ちゃん本当に綺麗よ。プロのカメラマンの方がそう言ってくださるんだから」
そしてそれから……。悠介と見詰め合って、後ろ姿の写真や、お姫様だっこ……。一人で座ってドレスの裾がふんわり広がった写真など十ポーズくらいだろうか撮っていただいた。
「お疲れさまでした。無理を言って申し訳ありませんでした。写真は全てアルバムにしてプレゼントさせていただきます。プロのモデルさんにはない生命の輝きそのままの幸せな雰囲気と笑顔がとても美しくて素敵でした。良い写真になりますよ。ありがとうございました」
「いいえ。こちらこそ、ありがとうございました。一生の記念になりました」
「もしかしたら後日、また別のドレスで写真をお願いするかもしれません。ご迷惑でなければ、その時は引き受けていただけるでしょうか?」
「えっ?」
「優華、俺は大賛成だけど」
「あら、優華ちゃん、モデルデビューかしら?」
「もちろん当社専属で、お願いしたいと思っております」
「私なんかで、お役に立てるのでしたら……」
人生って不思議だ。いつどこで何が起こるか分からない。それは辛いことばかりじゃなくて、思いもかけない幸運が待っていてくれたりする。生きているってことは、ただそれだけで素晴らしいことなんだと改めて思った。