二十年目の初恋
痛み 8
「美味かった。こんな美味しい晩ご飯、久しぶりだよ。ごちそうさま」

「どういたしまして」
 極普通の何でもない料理でも褒められれば、やっぱり嬉しい。

「後片付けは手伝うよ。それくらいなら出来るから」

「ありがとう。じゃあ、私が洗うから、悠介は拭いて片付けて」

「分かった」

 キッチンに二人で立って後片付け。

「二人だと早いね。もう終わった」

「コーヒー入れるから座ってて」

「うん。ありがと」
 エプロンをはずしてソファーに腰掛けた。

 コーヒーの良い香りがする。とても幸せな時間なんだと思う。悠介がコーヒーカップを二つ持って来て並んで座る。

「はい。優華の」

「ありがと」

「優華の料理、毎日食べられたら幸せだろうな」

「毎日食べてた人は、そう思っていなかったかもしれないけどね」

「別れた旦那のこと?」

「仕事人間だったから毎日遅かったし食事は済ませたとか。もっとも終わりの方は別の人と食べてたみたいだけど」

「優華……」

「あっ、ごめん。変なこと言って」

「お前、あんまり幸せじゃなかったのか? 結婚生活」

「幸せな時もあったんだろうけど……。もう忘れた。何を作っても美味しいって食べてくれる人じゃなかったし、気に入らないものには手も付けなかったし、食事の支度するのさえ苦痛だったこともあるの。また食べて貰えないんじゃないかとか……。毎日ビクビクしながら生活してたような気がする」

 悠介の腕が私の肩を抱いて、そのまま抱きしめられた。

「今夜、泊まって行くだろ?」

「えっ? そんな準備してないよ」

「準備なんか要らない」

「だって着替えとか……」

「そんなの要らない。服を着てる時間きっと短いから。さぁ、シャワー浴びるぞ。一緒に」

 お風呂の脱衣所へ連れて行かれた。悠介も全部脱いで、私も身に着けていたもの全て脱がされた。

「この前みたいに洗ってやるから」

 私も悠介の髪を泡だらけにしてシャンプーした。私の髪も体も何もかも洗ってくれて、シャワーのお湯で思い出したくない過去までキレイに洗い流された……。


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