二十年目の初恋
二人 5
「悠介、部屋のキー持った?」

「あぁ、持ったよ。今時は温泉旅館もカードキーなんだな」

「貴重品は?」

「財布は持ったよ。優華のバッグに入れといて」

「うん。預かったからね」

「浅葱の間。本当に目の前だな」

 悠介がドアを開けて部屋に入ると

「おっ、美味そう。優華、すごいご馳走だよ」

 すると仲居さんが「失礼致します」と入って来て「お飲み物は、どういたしましょうか?」と聞いた。

「そうだな。ビールを二本と、あとワイン。優華、赤、白? それともロゼ?」

「白がいい」

「じゃあ、白ワインを一本、お願いします」

「かしこまりました。すぐ、お持ち致します」と仲居さんは出て行った。

「本当、美味しそう。川魚と牛肉が美味しい所なのね」

「みたいだな」

 仲居さんは、すぐに戻って来て「失礼致します」とビールとワインを置いて
「追加のご注文がございましたら、そちらの電話でお願い致します。受話器を上げると通じますので。それでは、ごゆっくり」と柔らかい笑顔で去って行った。

「さあ、優華、ワイン。グラスに注ぐよ」

「悠介はビール? はい。お酌」

 二人で乾杯した。

「あぁ、美味い」

「うん。ワイン美味しい」

「さぁ、食べよう」

 お魚もお肉も、野菜の炊き合わせから、山菜の天ぷら、小さなお鍋まで。美味しいお料理と珍しいお料理とお酒で気持ちも盛り上がる。

 悠介はがっつり食べながらビールを二本飲んで、私一人でワイン一本は飲めないから手伝って貰って、かなりご機嫌になっていた。酔っ払ってるところまでは行かないけど……。このまま放って置いたら眠ってしまいそうな気がして

「悠介、そろそろ部屋に戻ろうか?」

「そうだな。お腹もいっぱいになったし」

「うん。美味しかった」

 カードキーで開けて部屋に入った。すると……。

 和室の真ん中にあったテーブルが、どけられて、お布団が二組、並べて敷いてあった。


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