二十年目の初恋
事件 3
「帰っていいと言った覚えはありませんよ。これから、K大学の理事長と会食の予定です。同席してください。あちらも秘書と来られるはずです。私に恥をかかせるつもりですか?」

「それは仕事なのでしょうか?」と訊ねると

「もちろんです。同席してくれますね?」

 トムソンガゼルは見た目はとても穏やかな笑顔で、その実、選択の余地はないのだと思わせる威圧感。富も権力も手にした人間の傲慢さを見た気がした。

「分かりました」

 仕方なく、また高級車に乗って。もちろん出来るだけ離れて座った。


 一流ホテルのフレンチのお店に連れて行かれた。個室に通されると既に、お二人はテーブルに着いていらした。

「お早いですね。お待たせしてすみません」

「いいえ。たった今、来たところですよ。お連れの方は新しい秘書の方ですか?」

「いつもは副学長の秘書をして貰っているのですが、きょうは私の秘書が体調が悪くて、無理を言って就いて貰いました」

「そうですか。しかし、お宅の大学は美人揃いですね。副学長も美しい方ですし。羨ましい限りですな」

「女性は、やはり美しいということが第一条件ですからね」


 そうだったの? 家の大学は美人コンテストで面接するのか? 初めて聞いた……。


 とにかく終始こんな会話ばかりが続いて……。本当にこれで仕事なのかという疑問を残したまま会食は終わった。フランス料理のフルコースは美味しかったけれど……。

 お店を出て

「それでは、また近いうちに」

「そうですな」
 と、お二人と別れた。どういう仕事なのか私にはサッパリ分からず。

「では私も、これで失礼させていただきます」
 と言うと

「きょうのお礼に、もう少しだけ付き合って貰えませんか? ここのバーで、お酒を一杯だけ」

 と言われ、なぜか断りきれず理事長と二人で最上階のバーのカウンターに居た。

 都会の夜景が美しい。生のピアノ演奏も上品で洒落た雰囲気。隣りに居るのが理事長でなければ最高の時間なのに……。


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