二十年目の初恋
愛される資格 11
乗るのは同じバスなのに、なんだか新鮮な気分。大学に着いたら、どうなっているのか、ちょっと不安だったけど。考えてもしょうがないことだし。まな板の鯉……か。
大学に着いてバス停から副学長室まで歩く。その途中に辞令などが張り出される掲示板がある。何も目新しい物は張り出されていない。私の名前ももちろんない。もしかしたら内々に辞めさせられる可能性もないとは言えない。
副学長室のドアの鍵を開けて部屋に入る。副学長はあと一時間は来ない。部屋の掃除を済ませ、郵便物、書類の整理、スケジュールの確認。
すると誰かがドアをノックする音。誰 ? こんなに早く。副学長ならそのままドアを開けて
「おはよう」と入って来るはず……。
なんとなく嫌な予感がしながらドアを開けた。そこに立っていたのは理事長。
「おはようございます。こんなに早くからどうなさったのですか ?」
「副学長はまだですか ?」
「はい。もう間もなく来られると思いますが。何か副学長に急ぎのご用件でしょうか ?」
「それでは少し待たせて貰います」
そう言って部屋に入って来た。どうしてこんなところまで……。顔も見たくないくらい嫌悪感でいっぱいなのに。この人は何も感じないんだろうか ? あの日からほんの数日、経っただけなのに……。仕方なくドアを開けたままにしておいた。冬じゃなくて良かった。
理事長は、しばらく副学長のデスクの後ろで窓の外の景色を眺めていた。この部屋は三階にあって窓から職員の駐車場が見える。副学長の真っ白なポルシェはこの部屋のすぐ下に停められるはず。まだ来ていないのは一目で分かる。それを確認する為なのか窓際に立ったままの理事長。
ドアが開けてあるとはいえ同じ空間に居ることが私には耐え難い苦痛。そんなことは、お構いなしの無神経さが余計に腹立たしいというのに……。
「あれは副学長の車ですね」
しばらくして
「おはよう」
といつもの様子で現れた。
「あら理事長、こんなところまで、どうされました ?」