二十年目の初恋
愛される資格 13
「実は私も近い内に、ここを辞めることになりそうだから」

「えっ ? どうしてですか ?」

「まだ誰にも話してないんだけど良い機会だから、あなたには話しておくわね。S女子大の学長にという、お話があって」

「S女子大、副学長の母校ですね。おめでとうございます。素晴らしいお話じゃないですか」

「本当は来春四月からという、お話だったんだけど。現学長がお体を壊されて入院中なの。今年度内の復帰は難しいらしくて。私に九月から学長として着任して欲しいと言われてるの」

「九月ですか ? とても急なお話なんですね」

「それでね。S女子大に詳しい秘書を一人就けてくださるんだけど、もう一人私を良く分かってくれる秘書を連れて来てくれて構わないって、お話なの。どう ? 私と一緒にS女子大に来てくれる気はない ?」

「私がですか ?」

「あなた以外に誰が居るの ? 十三年前、私が新人副学長で、あなたが新人秘書で。ずっと一緒にやって来たじゃない。これでも、あなたの秘書としての手腕は認めてるのよ」

「ありがとうございます。でも……」

「一人じゃ決められないわよね。彼は、あなたに専業主婦になって貰いたいのかしら」

「今回のことで、もし首になったら家に居てくれて構わないとは言ってくれましたけど」

「彼に相談してみてくれないかしら。あなたが来てくれたら心強いんだけど」

「ありがとうございます。よく考えてみます」

「そうしてくれる。あなたとなら大学が変わっても良い仕事が出来ると思うわ。じゃあもう、きょうは仕事は終わり。特に何もなかったわよね ?」

「はい。次の講演会のスピーチの原稿を考える以外は」

「まだ時間の余裕はあるわよね ? 早めのお昼にしない ? 良い和食のお店があるのよ。そこで二人で辞表でも書こうか。さぁ行きましょう」

 まだ午前中だというのに……。副学長室のドアに鍵をかけて真っ白なポルシェで出掛けた。

「私、滅多に人は乗せないのよ」

「そういえば見たことないですね」

「どうしてだか分かる ?」

「さぁ……」

「運転が乱暴だから人は乗せるなって父の遺言なの」

「そうなんですか……」

「嘘よ。だって家の父、まだ元気だもの」
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