二十年目の初恋
愛される資格 14

 真っ白なポルシェで乗り付けた店は副学長の親戚筋の方が経営していて上品な高級料亭という風情だった。都会の真ん中に、こんなにも静かで緑の多い場所があったのかと驚くほど、ゆったりと落ち着ける素敵な空間だった。

 二人で料理長お任せの美味しいお料理をいただいた。こんなに副学長と話したのは初めてかもしれない。やっぱり共通の敵の存在は結束を強めるものなんだと実感した。

「四、五日くらい返事を引き延ばして、二人で一緒に辞表を出さない ?」

「そうですね。理事長の秘書になってまで、あの大学に残りたいとは思いませんから」

「あなた、きょうはもう帰っていいわよ。引っ越しの片付けとかあるんでしょう ? 大学には気分が悪くなって早退させたって言っておくから」

「いいんですか ?」

「それで気付くくらいデリカシーの欠片でもあれば助かるのにねぇ。送るわ。彼のマンションまで」

 真っ白なポルシェで悠介のマンションまで送って貰った。

「ありがとうございました。これから大学に戻られるんですか ?」

「ええ。部屋の私物を少しづつ片付けるわ。理事長に見付からないように気を付けながらね。じゃあ明日ね」

「はい。お気を付けて」

 走り去るポルシェを見送った。はぁ、まだ二時だ。こんなに早く帰ったこと今までなかったわ。部屋の鍵を開けて「ただいま」ソファーに座った。

 私の人生いったいこれからどうなって行くの ? と聴きたい。誰に ?

 金曜日……。あの日から何かがオカシイ。私の人生にだけは生涯、関わって欲しくなかった理事長……。怨憎会苦。怨み憎む者に出会う苦しみ。いろんな出会いがあるけれど本当に出会いたくなかった。

 一人で考えていても仕方ないし、悠介が帰ったら相談しよう。とにかく着替えて、せっかくの時間だし。洗濯機を回しながら部屋の片付けを始めた。すると悠介からメール。

『大丈夫か ? 今夜は早く帰れるから。優華は帰り何時ごろ ?』

 返信メール……

『じゃあ、美味しい晩ご飯作って待ってるね。』

 たとえどんなことがあっても私には悠介が居てくれる。一人じゃないんだから。それだけで充分、幸せなんだから。
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