二十年目の初恋
退職の日に 4
「そんなに頼んで食べ切れるの ?」
心配そうに悠介は聞く。
「大丈夫。悠介が居るから」
お料理が次々に運ばれて来た。
「カンパ~イ」
二人でグラスを合わせた。
「美味しそう。食べよう」
食欲をそそる彩りが並ぶ。
「本当、美味そうだ」
焼きたてピザの香りが堪らない。
「カルパッチョ、美味しいよ」
「ピザ、やっぱり美味い。評判通りだな」
「お店の雰囲気も良いし、また来ようね」
「うん。いいよ。肉、美味い。いくらでも入りそう」
二人で美味しいイタリアンを楽しんで、おしゃべりも弾んだ素敵な夜を過ごした。
「ごちそうさま。美味しかった」
本当に。
「じゃあ行くか ?」
満足そうな悠介が言った。
「うん」
あれだけの注文を全て二人で食べ尽くして席を立った。お会計を済ませて。もちろん悠介が……。お店を出て車に乗った。
「このまま帰るの、何か、もったいない気がする。仕事帰りの優華と外で会うの初めてだよな」
「ん ? そういえばそうね」
「デートしようか ?」
「いいの ? 私は明日からとりあえず無職だけど、悠介は明日も仕事だよ。まだ金曜日が残ってますけど」
「まだ時間早いよ。行こう」
悠介は車を出した。さっきお店に入った時は、まだ辺りは明るかったのに、もう街は柔らかい闇にすっかり包まれていた。夜のドライブで、しばらく走って着いたのは二人が暮らす街の夜景が見渡せる小高い丘の上の公園 ?
「綺麗……こんな近くに夜景スポットあったの ?」
「知らなかっただろ。周りの車、みんなカップルだよ」
「えっ ? そうなの ? でも吸い込まれそうなくらい綺麗……」
「優華……」
「なに ?」
悠介は私の肩に、そっと手を置いて優しくキスしてくれた。
「せっかくの夜景だから、もう一度プロポーズするよ。優華、結婚しよう。後悔はさせない。きっと幸せにするよ」
「ありがとう。ずっと悠介の傍に居ていいのよね」
「もちろんだよ。ずっと一緒だ」
そんな悠介との会話がまるでプラトニックな恋人同士のように感じられて新鮮だった。