二十年目の初恋
一日目 5
悠介、きょうは早く帰るって言ってたのよね。そろそろ夕食の支度でも始めよう。今夜は、お刺身を買って来たから、後は小松菜のお浸しと春雨の酢の物でも作ろう。コロッケも一個残ってるし。
さぁ、出来た。お茶碗も並べ終えた頃に玄関の鍵の開く音。
「ただいま」って悠介の声。
「おかえりなさい」
「雨、降って来たよ。たった今……」
「そう。濡れなかったの ?」
「大丈夫だよ。夕飯出来てるの ? 腹減った。きょうは先に食べようかな」
「分かった。着替えて来て」
スーツから普段着になった悠介が
「お散歩、行ったの ?」
「うん。行ったよ」
「どうだった ?」
「素敵なお店たくさんあったよ。そこの通りで、ほとんど買い物出来そうよ」
「そうか。変な奴いなかった ?」
「いる訳ないじゃない」
って笑ったら
「優華に、こんなことする奴……」
って後ろから抱きしめられた。
「悠介くらいしかいない」
「当然だろ。優華は俺のものなんだから」
後ろから、そのまま頬にキスされた。
「食べよう。ハマチのお刺身だよ。そこの通りのお魚屋さんで買ったの。お肉屋さんのコロッケもあるのよ。私、そこの商店街、気に入っちゃった」
「半年住んでる俺より、一週間の優華の方が詳しくなったみたいだな」
椅子に腰掛けながら悠介は笑ってた。
「うん。美味いよ」
って食べてくれて、商店街の話も聞いてくれて、後片付けは、もちろん悠介も手伝ってくれた。
「コーヒー入れようか ?」
悠介が聞いた。
「うん。飲みたい。悠介の入れたコーヒー」
ソファーで待っているとコーヒーのいい香りがして来て……どうしてこんなに癒されるんだろう。
「はい。お待たせ。優華の」
マグカップをテーブルに置いてくれた。
「ありがとう。悠介が入れると香りが違う気がする」
「そんなことないよ」
「ううん。すごく癒される香りなの。何でかな ?」
「俺は優華が居るだけで癒されるけどな」
「本当 ?」
「きょう優華が家に居てくれるって思っただけで、すごく安心したんだ」
「そうなの ?」
「正直言うと優華に新しい大学で秘書を続けて貰うより、俺の傍に居て欲しい」