二十年目の初恋
引っ越し 1
悠介の温もりに包まれたまま私は目を覚ました。ずっとこんなふうに私を抱きしめていてくれるんだよね。
悠介は良く眠ってる。起こさないで私が起きる方法は? もう少し眠らせてあげたいのにどうすればいい? 考えている内に私も、つい眠ってしまっていた。
次に目を覚ましたのは……。七時半過ぎてる。大変。急いで支度しないと。
「悠介、起きて」
「うん? う~~ん。おはよう」
「寝過ごしちゃった」
「えっ? まだ大丈夫だよ」
「そうだけど……」
「引っ越し屋さん、十時だろう? 今から支度して行けば充分間に合うよ」
「でも朝ご飯……」
「別に食べなくても、どうってことないよ」
「あっ、そうだ。昨日パン屋さんで美味しそうなパンを買って来てたんだった」
「ほら大丈夫だろ? ああ俺コーヒー入れるから、優華支度していいよ」
こういう時、悠介の大らかさに救われる。
顔を洗って日焼け止めだけ付けてキッチンへ行くと悠介の入れるコーヒーの香り……。
「パンってこれ? シナモンのいい香りがする。メロンパンもあるんだ」
「悠介、メロンパン好きなの?」
「実は大好物なんだ」
「あと、カレーパンとクリームデニッシュがあるよ」
「う~ん、カレーパンも捨て難いなぁ……」
「私、クリームデニッシュだけあればいいよ」
「そうか? このシナモンの美味しいよ。ほら優華、一口食べてみて」
「うん。あっ本当美味しい。昨日お昼に食べた明太子のフランスパンも美味しかったよ」
美味しいパン屋さんのパンで朝食を済ませて悠介の車で私のマンションに向かった。
「なぁ、優華」
「うん? なに?」
「お前、子供の頃から忘れ物もしたことないし、宿題もちゃんとやって来たし、キチンとしてるところは偉いと思ってるよ。だからこそ秘書も務まってたんだと思うし。優華の性格は秘書向きだと俺も思うよ。でも疲れないか? もう少し、ゆったりのんびりしたところも、あっていいんだと俺は思うけど」