明日の君と
ボク達は、近くのショッピングセンターで必要なものを買って病院に戻った。
そして家族控え室で手術の終わるのを待った。
しばらくすると看護師さんに呼ばれ執刀医がやってきた。
手術は無事終わったと、だがあと1~2週間程度入院が必要だとのことだ。
とりあえず安堵して見つめ合ったボクらの横をストレッチャーに乗せられた中野さんが通っていった。
麻酔のせいか、いつもの大きなタレ目は虚ろで、口には酸素マスクをあてられ、白く細い腕には点滴針が刺さっていた。
当たり前の事かもしれないが、いつもあんなに元気な中野さんとは思えず、痛々しく感じていた。
ボクのとなりの里沙さんは涙すら浮かべていた。
今日は遅いし患者さんを休ませるために明日の午後以降面会に来てくださいと看護師に告げられたので、ボク達はさっき買ってきたものを渡し病院を後にした。
「手術、無事に終わってよかったね」
ボクはホッと息をついて言った。
「うん」
里沙さん同じ表情をしていた。
「送ってくよ」
「ありがとう」
ボクは努めて軽く言った。
「大丈夫だよ。下心はねぇから」
そんなボクの言葉に、里沙さんは泣き笑いみたいな不思議な顔をしていた。
ボクは里沙さんを後部座席に乗せ、彼女の家まで送った。
ボクの背中に感じる温もりは、ボクの脳内で煩悩に変わり、その煩悩は汗となって体外に排出された。
この汗は梅雨明けのこの気候のせいだと、彼女が思ってくれればよいのだが。
その煩悩の汗を見てか、里沙さんは
「武田君、ありがとう。なんか冷たいものでも飲んでく?」
と言ってくれた。
無防備なのか、ボクを全く男して見ていないのか。
「じゃあ、ちょ、ちょっとだけ」
上擦りそうになる声を必死にこらえて冷静にボクはしゃべった。
里沙さんの部屋は小綺麗な女の子らしい部屋だった。
今日買ってきたカーテンが早速使われていた。
その部屋の中でボクは、冷えた烏龍茶を一杯もらい一気に飲み干した。
「武田君、今日は香奈のことありがとう。私一人じゃなにもできなかったから」
「ボクもなんもしてないから、気にしなくてもいいんじゃないですか」
ボクの言葉を聞いていないのか、里沙さんはボクから視線をはずしながら言った。
「武田君、明日、香奈のお見舞い行ってあげてね。香奈きっと喜ぶから。それとね、昼のことなんだけど、私の言ったこと、忘れてもらえないかな?今まで通りの3人でこれからもいられないかな?」
その声は消え入りそうな声だった。
「それは、里沙さんも、ボクの言ったことを忘れますって、こと?」
ボクの問いに小さく彼女は頷いた。