明日の君と
ボクは久しぶりに再会した愛犬であるフリードリヒをつれて、近所の森に散歩に向かった。
夏の強い日差しはあるが、東京とちがい湿度が低く快適だ。
木漏れ日が眩しい。
小川までくるとフリードリヒは嬉しそうに尻尾を振りながら川に飛び込んだ。
やはり田舎はいいもんだ。
川遊びに満足して上がってきたフリードリヒを連れて家に戻った。
ちょうどその時、中野さん達が到着したところだった。
「ようこそ、ペンション フォレストに」
ボクは深々頭を下げた。
「イツキ、よろしく!ん?ワンちゃんの名前は?」
香奈さんは伸びをしながら訊いてきた。
今日の彼女はホットパンツにキャミとは久しぶりに派手目な格好をしていた。
ふむ、満更悪くないなぁ、つか、むしろ良い!
「フリードリヒです。今、川遊びしてきたから近づかないほうが」
遅かった。
コイツ、興味深げに近づいてきた里沙さんに突然しがみつきやがった!
白のふんわりとしたスカートにヤツの泥の手形が。
「こぉのぉ、バカ犬!お客様に何てことしやがる!!里沙さん、ホントすみません」
フリードリヒを叱りつけるボクに彼女は笑みを浮かべたまま答えた。
「武田君いいのよ。着替えあるから」
この人の優しさって、ホント、天使レベルだ。
「ホントごめん」
家の中から母親が出てきて、中野さんの両親に挨拶し始めた。
「いつも、ウチのダメ息子が、お嬢様にお世話になっております」
ヘイヘイダメ息子でげすよ。
母親は次にボクらのところへやってきた。
里沙さんにフリードリヒの粗相を詫びながら続けた。
「里沙ちゃん、ずいぶんと美人さんになったわねぇ。まさか樹が同じ学校に入るなんてね。これからもよろしくね」
そして香奈さんに向かって
「中野さん、ゆっくり療養してってね。ここは空気がいいからすぐよくなるから。美味しいものいっぱい作るからね」
と、言った。
「ありがとうございます、お母さん。お言葉にあまえさせて頂きます」
格好とは似つかない丁寧な受け答えを香奈さんはしていた。
「ふ~ん、お母さんねぇ。いい響きだわぁ。ところで、樹のことどう?もらってくれない?」
なに言ってんだよ母さん!!
「母さん!!お客様に失礼だろ!!」
「ヘイヘイ」
母はペロリとイタズラっ子のように舌を出して、中野さんの荷物を運んでいった。