明日の君と
夕食の時、ボクは当然のように無給で配膳係を押し付けられた。
まぁ、仕方ない、子供の頃からそうだったんだしね。
当店自慢の夕食をたんとお召し上がりください。
本日のメインは牛頬肉のシチューになっております。
ジーンズにTシャツ姿に一応のエプロンを装着し、ボクは各テーブルを回った。
その際、香奈さんから食後散歩に行こうと声をかけられた。
「片付け終わってからでいいですか?フリードリヒの散歩ついでで」
ボクは答えた。
すると里沙さんが言った。
「武田君、まだホタル見れる?」
「ホタルいるの?見たぁ~い」
里沙さんの発言を聞いて香奈さんはしゃいで言った。
「藪っ蚊に刺されてもいいなら案内しますよ」
ボクは答えた。
片付けが終わって玄関に向かうと里沙さんと香奈さんが手足をすっかり覆った完全防備で待っていた。
「気合い入ってますなぁ」
ボクはふたりの姿を笑いながら茶化した。
フリードリヒを連れて、ボクたちは昼に行った小川に行った。
しっかりとホタルは舞っていた。
闇の中に聞こえる小川のせせらぎ音が、ホタルの緑ががった光を引き立てる。
「キレイ」
里沙さんも香奈さんもうっとり見とれていた。
ボクも負けじとばかり、タバコに火を付けて、ほらホタル、とか言ってみたがふたりの冷ややかな視線をもらっただけだった。
年々数こそ減ってきているが自然のホタルの光は都会の人工的な光と違い心を癒やしてくれる。
儚げでも、生きる強さを感じさせる優しくせつない光の群れ。
「ホタルもいいけどさ、ちょっと上も見てごらん」
ボクはふたりに言った。
目の前の川とはちがって空には星々の大河がながれていた。
空一面の星々をしばらくの間、ボクらは飽くことなく眺めていた。
そして、ふと思う。
織り姫と彦星は今年は逢うことができたのかな?
天空のmilky way、いわゆる天の川、その星々の流れはいつまでもボクらの頭上で煌めきを放ち続けた。