明日の君と
遠い足もと
ホタルと天の川を充分堪能してボクらはペンションにもどった。
フリードリヒはもっと歩きたがっていたが、暗いし蚊も多いことだし彼には我慢してもらった。
ボクが部屋でタバコをくわえながら缶ビールを飲んでいるとドアがノックされた。
ボクが返事をする前に香奈さんと里沙さんが入ってきた。
「ここは従業員の部屋ですよぉ」
ボクは言った。
「イツキ、なぁに、缶ビール飲みながらクサってんのよ。差し入れもって来たんだから感謝しろ」
香奈さんは左手を腰にあて、ビールとおつまみを持って偉そうに言った。
「武田君、ゴメンね。でも一応お母さんに許可はいただいたのよ」
そう言って、里沙さんはイタズラっぽく笑った。
「若い男の部屋にうら若き女性が用心なく入ってくるのは感心できませんね。襲われちゃっても知りませんよ。ぐヘヘヘ」
ボクのアホな言葉に、香奈さんは変な構えをしてみせた。
「なにぃ?アンタ、私らを襲う気かい?あたしゃこれでも空手3級だよ」
香奈さんの言葉に、今度は里沙さんが続けた。
「私も書道2段だし」
ボクは吹き出して言った。
「ボクはソロバン4級です。ついでに英検は2級です」
香奈さんからの差し入れビールでボクらはとりあえずの乾杯をした。
ふたりは明日、ボクさえよければこの辺の観光の案内をしてほしいと言ってきた。
そして、今ボクが飲んでいるビールはその報酬とのことだ。
先に飲ませておいて、それが先払いの報酬とかって、アコギなことこの上ない。
まぁだが、断る理由も無いので、ボクは喜んで案内役を引き受けることにした。