明日の君と
「次はどこに行きますの?」
中野夫人が多少ワインで赤くなった顔で尋ねてきた。
香奈さんのお母さんて、香奈さんとは違って言葉使いとか、立ち振舞いとかって上品だよなぁ。
そんなことを考えつつ、ボクは香奈さんを見てニヤリとして
「取り敢えず、高所恐怖症の方もアルコールの力をお借りできたようなので、またまた見晴らしのいいところへご案内いたします」
と言い放った。
「なによぉ~それ!イツキのイジワルぅ~」
香奈さんは情けない顔をしながらボクのプランに、猛抗議した。
だが、中野さん(父)が、まぁ、とりあえず行くだけ行こうよ、と彼女を諭したためボクらは予定通りの目的地に向かうこととなった。
ボクらは清里大橋の手前の駐車スペースに車を止めて、橋に向かった。
香奈さんは、イヤだ行きたくない、などと子供のように駄々をこねていたがボクと里沙さんで無理無理押して橋まで連れていった。
中野夫妻はすでに橋の中ほどまで行っており写真を撮っている。
「イツキ、なんでこんなところに連れてくるのよぉ。ホントに怖い」
香奈さんはマジ泣き寸前だ。
「大丈夫ですよ、落ちやしないから。車の通る頑丈な橋だから、ね、ボクや里沙さんに掴まっていきましょ」
「ほら、香奈、泣かないで、手繋いでいこう」
ボクのシャツの裾と里沙さんの手を握りしめ香奈さんは殆ど目をつぶったまま歩き出した。
橋の中央付近でボクは中野さんからカメラを借りてみんなを写した。
香奈さんはイジケた子供みたいな顔をしていた。
次に中野さんがボクら3人を写すと言ってカメラを向けた。
香奈さんを中心に左に里沙さん、右にボクと並んだ。
写真を撮るその刹那、橋が少し揺れた。
観光バスが橋に入ってきたのが見えた。
手遅れだった。香奈さんはその場にへたり込んでしまった。
「イツキのバカァ~、イジワルぅ~、もうヤダァ~」
見事に幼稚園児並みのマジ泣きをしている。
中野夫妻は苦笑いを浮かべて
「香奈がこれじゃ、ダメですね、引き返しましょう」
と言ってきた。
「香奈さん、ごめんね。ほら、引き返しましょう」
「腰が抜けて立てない、イツキおぶってけ」
さすがにマズいと思ったのか中野さんは車をとってくると言って走り出した。
ボクは香奈さんを引っ張り立たせて肩を貸して歩き出した。
里沙さんは心配顔で見ていたが、中野夫人の方は何を思ったか、笑いながらボクらにカメラを向けた。
後日見せてもらうことになるのだが、そこには子供のようにイジケてむくれた香奈さんと、めっきり困り顔のボクが写っていた。