明日の君と
その後ボクらは牧場に行き、作りたてのアイスを食べたりしたが、香奈さんの機嫌は傾いたままだった。
ボクのことを全く無視するように、里沙さんを連れてヤギやウサギなどを見に行ってしまった。
「武田君、ごめんなさいね。香奈ったら本当いつまでも子供みたいに」
中野夫人がすまなそうに言ってきた。
「ボクこそすみません。ちょっと悪ふざけしすぎてしまいました。反省してます」
「なぁに、武田君が気にすることないさ。香奈は僕たちが甘やかして育てちゃったからね。それよりこのワイン今夜飲もうよ」
中野さんは途中のワイナリーで1本赤を買ってきていた。
ペンションに戻り夕食の時も香奈さんはご機嫌斜めで、ボクは母に小言をブチブチ言われた。
「ウチのバカ息子が失礼致しまして申し訳ございません。これ、よろしければどうぞ」
母は15年寝かせてあったボルドーの赤を1本持ってきた。
「武田さん、そんなお気遣いなく。私達こそ樹君には1日案内役させてしまいまして申し訳ない。私も1本買ってきたのでそれを飲みましょう。そちらのワインはどうぞおしまいください。15年物なんてもったいない。もっと大事な時にお飲みください」
中野さんは笑って言ってくれた。
香奈さんもさすがにいつまでも怒ってる事にバツが悪くなったのか、はたまた仲直りのきっかけがほしかったのか
「イツキのバカ、今日の事はビール1本奢ってくれたら許してあげるわ」
と、上目づかいにボクを睨みながら言った。
だが彼女の口元は笑みを浮かべていた。
「ハイ喜んで!エビスでよろしいですね?」
ボクは大瓶を1本香奈さんに献上した。
里沙さんはそんなボクらを見てやさしく微笑んでいた。
「樹、アンタのバイト代から引いとくわよ」
厨房から母の声がした。
「なんだ、バイト代くれるつもりだったの?」
「引いたら0だね。だからバイト代なしよ」
母の言葉でみんなが楽しげに笑った。
「さぁ、みんな飲みましょう」
中野さんは昼に飲めなかった鬱憤を晴らすように乾杯の音頭をとった。