明日の君と
雨に濡れて
清里の土産を持ってバイトに行った。
喫茶店「ベル」の鈴木店長は人なつっこい笑顔で礼を言って受け取った。
街道沿いのマンションの一階にあるこの店の店長は実はこのマンションのオーナーであったりもする。
マンション収入で充分生活できるはずだが、道楽というか、暇つぶしがてらにこの店を開業したということだ。
それでもコーヒー豆や紅茶葉にはなかなかこだわりがあるらしく、美味いものを客に提供していた。
商売っ気少ない和やかな雰囲気と、人好きされる店長の人柄と相まってそれなりに固定客もついていた。
開店後まもなく常連さんの徳元さんがきた。
脇にはスケッチブックを抱えている。
徳元さんは定年後趣味の絵画を楽しんでおり、よく店内の様子や、店長と奥さんを描いたりしていた。
この前一度ボクも描いてもらったが上手なものだった。
因みに店長の奥さんは店長より15歳も若い。
店長よりボクの方が年齢は近いぐらいだ。
なんでもここでバイトしていた学生だったとのことだ。
バイトの娘に手を出して嫁にするのはどうかと思うが、店長の人柄なら納得もできるとこもある。
実際、奥さんにしてみれば一緒にいて楽しいと思える人だと思うし、なんつったって店長は資産家だから、滅多にない玉の輿である。
ボクも5月からここでバイトしており、週3、4回は来ている。
賃金面では普通だけど、アットホームな雰囲気のこの職場は非常に働きやすい。
夏休みにいたっては、ボクはほぼ毎日この店でバイトを入れていた。
1日涼しいとこにいられて、しかも常連さんや店長相手に楽しいおしゃべりをしたりできるし、大変割りのいいバイトだと思う。
入り口の扉に提げてあるベルがカランコロンと来客を告げた。