明日の君と
ボクは居間の窓からいつまでも降り止まない雨を眺めていた。
「イツキ、アンタの服洗濯してるからしばらく待っててね。その後、乾燥機かけるから2時間くらいかかっちゃうかな」
Tシャツにスウェットとラフな姿の香奈さんが居間に入ってきた。
「すみません、すっかりご迷惑かけちゃって」
ボクはホント申し訳なく思い軽く頭を下げた。
「いいのよ、気にしなくて」
シャワーあがりの香奈さんはほんのり頬が赤く髪がシットリ濡れていた。
そんな彼女を見て、不意にバイクに乗ってた時の背中に感じたあの柔らかい感触を思い出してしまった。
ボクは香奈さんを直視できなくなって、再び窓の外に目をやった。
「立派な家ですね。庭も広いし」
やっとの思いで口を出た言葉はこんなものだった。
「でもね、ひとりで過ごすには大きすぎるんだ。この前、親が帰っちゃってから余計そう感じるの。ちょっと寂しいかな」
香奈さんは窓際まで行き外を眺めた。
「止まないね、雨」
その小さな背中から寂しさを感じ取った。
ボクはそんな彼女の背中を後ろからそっと優しく抱き包みたい衝動に襲われた。
ボクは香奈さんの隣に立って一緒に外を見た。
ボクはこみ上げてくる衝動を抑えるのに必死だった。
雨の音がなければボクの鼓動は香奈さんに聞こえてしまいそうだ。
いったいこの気持ちは何なのだろう?
ボクは恋したのか?香奈さんに。
それともこの今の状況に騙されているだけなのか?
確かにこの頃、里沙さんよりも香奈さんのことを考えている事が多いかもしれない。
ボクは里沙さんにはフられたんだろ?
ならこの際、香奈さんに、いや、いかん、そんな邪な理由じゃ、きっと香奈さんを傷つける。
様々な思考が頭をよぎった。
そんな時、香奈さんが独り言のように囁いた。
「雨、止まないといいな、止んだらイツキ帰っちゃうから」
もう、自分を抑えることができなかった。
今の彼女の言葉が全てのボクの理性の堤防を打ち壊した。
ボクは香奈さんの華奢な体を両手で抱きしめていた。
香奈さんは一瞬たじろぐようにボクを見つめたがゆっくりとボクの胸に額をあずけてきた。
ボクは彼女のあごを右手でそっとあげ、潤んだ大きな瞳を強く見つめた。
彼女はそっと両目を閉じた。
ボクは彼女の柔らかい唇に自分の唇を重ねた。
遠くで洗濯の終わりを告げるアラームが鳴った。
「洗濯終わった、乾燥機かけなきゃ」
彼女はうつむいたままボクの腕の中から小走りに去っていった。