明日の君と


長かった夏休みも終わり大学の後期が始まった。
ボクは、授業のある日は学校へ行き講義を受けたりサークルに顔をだしたりして過ごし、休みの日や午後がまるまる空いている日にはベルでバイトに励んだりしていた。
一応というか表面上どうにか香奈さんとは普通に話はできるようになってはいた。
だが、お互いどこかなんとなく意識してしまうことがあるのか、ギクシャクというか、微妙な空気を感じてしまっているのも事実だった。
実際あの晩の件は、あれ以来ふたりの間では話されていないし、ボクの気持ちも伝えてはいない。

ボクの気持ち、今は自分でもハッキリとわかる。
ボクは香奈さんが好きだ。
彼女と会えなかった間、ボクは今まで経験したことのない苦しみをずっと感じていた。
確かに春先、彼女に出会った頃のボクは里沙さんに一目惚れしていた。
正直、香奈さんは眼中に無かった。
でも、この半年の間、香奈さんと時間をともに過ごしているうちに、彼女の存在はボクの中でとても大きなものに変化していった。

大きなタレ目でじゃれるように騒ぐ香奈さん。
なんかちょっと気に入らない事をいうとすぐムクレる香奈さん。
退院祝いの花束を渡すと涙ぐんでしまった香奈さん。
あの雨の晩に見せた寂しげな瞳、そしてボクの理性を打ち壊した彼女の言葉。
それに彼女の柔らかい唇。
他にもたくさんある、ひとつひとつの香奈さんとの思い出が、ボクの胸を去来してはボクをせつなくさせ、また同時に熱くさせていた。

いつかもう一度、しっかりとボクの気持ちを彼女に伝える。
必ず伝える。



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