明日の君と



ボクは自分の気持ちをハッキリと自分で知ることはできたが、それを香奈さんになかなか伝えられずにいた。
ボクらは以前と同じようにバカなことを言い合ったりしていたが、未だ何か紙一枚ほどの違和感を残しているのもまた事実であった。
だけど、ボクの中で香奈さんの存在は日に日に大きくなっていき、家で1人過ごす時はどうしようもなく切なくなった。

そんな悶々とした日々を過ごしていたある午後、ボクは新宿の東口交番近くで偶然に香奈さんを見かけた。
ボクは思わず嬉しくなり走りよって後ろから

「香奈さん!」

と声を掛けた。

「イツキ?」

彼女は驚いたようにボクを振り返った。

「こんなとこでお会いするなんて奇遇ですね!買い物ですか?」

ボクはついついハシャいでしまっていた。

「あ、うん、ちょっと待ち合わせしてるの。アンタはなにしてんの?」

香奈さんはちょっと動揺しているようだった。

「紀伊國屋に本を探しに」

と言いかけた刹那

「香奈、ワリィワリィ、待たせちまったな」

と、見知らぬ男がニコニコと香奈さんに近づいてきた。

「イツキ、じゃあまたね」

そういい残し彼女はその男の方へ小走りに行ってしまった。
その男はボクを一瞥してから香奈さんを見てなにか言って、そっと彼女の肩に手をかけた。
そして2人は人混みに消えていった。

どういうことなんだ?
さっきの男はいったい?
ボクは呆然とその場に立ち尽くしてしまった。

ボクは本来の目的であった紀伊國屋にも行かずにそのまま家に帰っていた。
薄暗くなった部屋の中でボクはひとり、タバコをくわえながら、多分イジケたと言われる状態で、自己嫌悪に陥っていた。

なんだよ、彼氏いたのかよ。
ボクがひとりでに勝手に盛り上がってただけなのかよ。
自惚れだったのかよ、香奈さんが自分に惚れてんじゃないかって。
でもキスしたじゃないか。
じゃあ、あの晩の彼女の言葉はなんだったんだよ。
ただ寂しかっただけなのか?
ボクはただの仲のいい友達だったってことか?
全くの独り善がりだったのかよ。



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