明日の君と


七尾里沙。
それが新歓コンパでボクの前に座った女性の名前だ。
意外なことに、七尾さんはボクの隣にいるウルサイ中野さんと仲が良かった。
性格も服の趣味も正反対なんだが。
だから気があうのかな?
パッチリとした澄んだ瞳、透き通るような白い肌、アルコールでほんのり朱の入った頬、自己主張しすぎない愛らしい唇。
視界に彼女が入る度にせつなくなった。

おかげで、最初は友達作りのために入ったこのESSも、ある種違う目的ができたわけだ。



「武田君、最近熱心だねぇ。感心感心。ご褒美にお姉様が夕飯付き合ってあげるわよ」

「中野さん、あいにく奢って差し上げるほど、持ち合わせはありませんよ」

後輩にタカる気か、里沙さんなら喜んで奢らさせていただくけど、と心の中で毒づいた。

「香奈、武田君にまでタカる気なの?武田君、真に受けなくていいのよ」

女性にしては少し低めの声だが、心地よさを感じさせるゆったりした話し方で里沙さんが声を掛けてくれた。

あぁ~、この瞬間のためにこのサークルに来てんだよなぁ。

「なによ、里沙も武田も。ヒトをタカり魔みたいによばないでよ!」

中野さんの大きなタレ目が珍しくつり上がったように見えたが、やはりタレ目はタレ目だった。

「いいわね。そこの二人、今夜飲み行くわよ」

「あの、ボク、今日誕生日なんですけど」

「だから、私ら美女2人が祝ってやるって言ってんのよ」

あれ、中野さん、ボクの誕生日なんで知ってんだ?

「あら?香奈なんで武田君の誕生日知ってるの?」

ボクの思ったことと同じことを里沙さんは質問した。

「入会書を書かせたの私だからね」

「個人情報の漏洩だ」

「武田、あんたもいちいちウルサいわね。いいわね、今夜。里沙も」

「ハイハイ」

里沙さんとハモってしまい3人で吹き出した。

「ハイは一度でよろしい」

中野さんは小学校の教師のような口調で言った。

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