明日の君と


ボクは香奈さんの瞳を見つめ続けた。
彼女はそっと目を閉じた。
ボクは彼女の唇にそっと口づけた。
ただ、今回はそれだけでは自分の衝動を抑えることはできなかった。
ボクは舌で彼女の歯をこじ開けようとした。
彼女は最初は少し抵抗する素振りをみせたが、やがてボクの軍門に下ることになった。
ボクは激しく彼女の舌を求めた。
自分の舌を彼女の舌に絡みつかせた。
背筋をゾクゾクとなにかが走り抜けた。
胸が熱くなった。
呼吸が苦しくなり肩が激しく上下した。
ボクらはゆっくりと唇を離した。
香奈さんの顔は朱に染まっていた。

「イツキの、バカ」

彼女は瞳を潤ませながら言った。
ボクは香奈さんの頭を軽く撫でて、もう一度軽く口づけをした。


ボクはキッチンに向かい、もう一度カフェオレを作った。
今度は香奈さんも手伝うと言ってきかなかった。
ボクらは各々のマグカップを持って部屋に戻った。

「イツキ、アンタさぁ、里沙のこと、本当にもう吹っ切れてんの?」

香奈さんは真剣な目で訊いてきた。
ボクは少し考え

「正直言っちゃうと、ボク里沙さんにフられました。亡くなった彼のこと忘れられないって言われて」

と告げた。
一瞬、香奈さんが不安気な表情をみせた。

「でもね、今思うとその時、不思議とね、香奈さんに彼がいるって勘違いした時のような喪失感や、自分を見失うようなやるせなさはなかったんだ。こういう言い方すると里沙さんに失礼かもしれないけど、多分、一目惚れの一過性のものだったのかもしれない」

ボクは自分にも言い聞かせるように言葉を口にしていた。



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