明日の君と
その夜、ボクたち3人はボクのアパートの近くのちょっと小洒落た居酒屋に来た。
無国籍料理が中心の店だ。
「武田も晴れてハタチだね。これで堂々と酒が飲めるね。ってことで誕生日おめでとう」
中野さんの変な音頭でボクらは乾杯した。
暫くとりとめのない会話をしていたが、中野さんのピッチは速く次第にグダグダになった。
「武田ぁ、あんたデカいね。身長なんぼ?体重は?なんかスポーツやってたの?」
「188センチで74キロの元バレー選手ですよ」
「ふ~ん、でどこ出身?」
話が飛ぶヒトだなぁ。
「山梨の清里ですよ」
「里沙ぁ、山梨って何県?」
「香奈、飲み過ぎよ。全く。武田君ごめんね。武田君、清里の出身なんだね」
やっと、里沙さんと話ができる。
ちょいと嬉しさが湧き上がる。
「なんもない田舎ですよ。里沙さんはどちらなんです、実家」
里沙さんは不思議な懐かしむような笑みをみせた。
そして、その笑顔だけでボクを昇天させてしまいそうな最高の笑みを見せた。
「や~っぱり、武田君だぁ~」
その美しい笑みで里沙さんは続けた。
「神崎里沙って覚えてない?」
里沙さん、何言ってんだ、突然?
ん?
神崎里沙?
神崎?
ん?
ボクは遠い記憶の中にその懐かしい名前を見つけた。
「えっ、あっ、えっ、か、神崎里沙ぁっ?」
ボクの声は裏がえった。
ボクの記憶の中の神崎里沙を再現した言葉がこれであった。
「真っ黒で、男みたいだったハナタレの神崎??」
そのボクの言葉に
「武田君、ヒドすぎる。あんまりだわ」
と、里沙さんは拗ねた口調で言った。
でも、笑っている。
「ちょっと~、なに訳わからないことで盛り上がってんのよ~」
中野さんは仏頂面になっていた。
「香奈、すごい偶然なんだけど、武田君と私ね、小学校の同級生だったの」
「あ、あ、あの神崎が七尾さん?マジかぁっ!」
「武田君、ヒドすぎっ。私転校したの小学校2年生だったから、あれから12年経つのよ」
なかなか現実を受け入れるのに苦労したが、現実は現実、ボクはそれを受けとめた上で話しを進めた。
「神崎、すっげぇ奇遇だなっ。なんかすっげぇ嬉しい。つか、美人になりすぎっ!」
「ふ~ん、あたしゃお邪魔かね。なら、あたしゃ帰りますよ」
どういうわけか、中野さんがすごく拗ねてる。
自分にわからない会話で盛り上がったせいかな?
「香奈のおかげよっ。香奈が武田君を勧誘してくれたからこそ、結果的に懐かしい同級生に会えたんだから。ねっ、拗ねないでよ」
初めて見る、里沙さんのハシャいでいる姿だ。
かわいい。
すんげぇ、かわいい。
それにしても、里沙さんがあの神崎なんて、女って変わるもんだなぁ。