明日の君と
里沙さんの独演会はまだ続いた。
しかも今度は話のベクトルは香奈さんに向けられていた。
「香奈ぁ~、武田君のこと頼むわよぉ。子供の頃からちょっと不器用で、なかなか自分の感情を出さない変な子だったんだからぁ」
ずいぶんないわれようだなぁ。
しかも保護者口調じゃん。
「でもねぇ、あまり言葉に出さなかったみたいだけど、あの頃は子供ながらの気遣いとかできる子だったのよぉ。だから割とね、女の子には人気あったのよぉ。だから気をつけてねぇ」
そ、そうだったの?
そんな記憶ないけどボク。
「里沙、わかったわ、気をつけるよ」
香奈さんは優しく微笑んだ。
里沙さんはしばらく独演会を続けていたが、そのうち目に涙を溜めながら
「本当によかったぁ~。香奈と武田君がこうなって。前、武田君に言ったよねぇ。香奈が武田君のこと好きみたいだって。私ったらヤッパリ先見の明あるのねぇ~。フフ~ン」
と、言ってパタリと床に伏せて寝てしまった。
「香奈さん、里沙さん寝ちゃったけど、どうしましょう?」
「私の部屋のベッドに寝かしてあげようかな。イツキ、今日は許すからさ、里沙をお姫様ダッコして連れてきて」
ボクは里沙さんを言われたとおりにダッコして二階の香奈さんの部屋に運んでベッドに寝かせた。
「香奈さんの部屋、初めて入ったけど、割と片付いてるんスね」
ボクは言った。
「アンタ、相変わらず失礼な。う~ん、里沙ったら完全に寝ちゃったけど、イツキ、どうする?」
香奈さんは訊いてきた。
「どうするもなにも、ボクがココにいちゃマズイっしょ。酒飲んじゃってるし、居間で寝ますよ」
「アンタ眠いの?」
「いや、まだ全然」
「じゃあ、下でまた飲み直そうか?」
ボクと香奈さんは居間に戻って再び乾杯した。
「初めて見ましたよ。里沙さんのあんな姿」
「それだけアンタも気の置けない仲になったってことよ」
「それより、子供の頃、里沙さんがボクのこと好きだったって聞いて、香奈さん、少し妬けた?」
「全然。ただね、ちょっと羨ましいかな。私の知らない頃のイツキを知ってるてことがね」
香奈さんは、はにかんだような笑みでそっと呟いた。