明日の君と


案の定、ボクは深い睡眠をとることが出来なかった。
とりあえず、シャワーを浴び、濃いめのモカを飲み頭をスッキリさせて、香奈さんの家に向かった。
11月ともなると朝の空気は少し寒く、寝不足気味のボクの体を引き締めてくれた。
呼び鈴を押すと香奈さんはすぐに飛び出してきた。

「おはよー、イツキ。もう出る?それともコーヒーでも1杯飲んでく?」

バイクの運転で体が冷えていたので、ありがたくコーヒーをいただくことにした。

「ねぇねぇ、イツキ、今日はドコ連れてってくれるの?」

香奈さんは子供みたいに嬉しそうに尋ねてきた。

「本栖湖って知ってます?富士五湖の端っこの湖。キレイなとこなんスよ。ただ、ちょっと寒いかもしれないから、厚着したほうがいいかもしれませんね」

「ふ~ん、本栖湖かぁ。行ったことないや。高いとことか行かないよね?」

彼女は真剣に訊いてきた。

「もう、あんなイジワルはしませんよ。香奈さん泣いちゃうからね」

ボクは夏の出来事を思い出した。

「よかった。またあんな橋みたいなトコ連れてかれたらどうしようかと思ってたのよ」

「信頼されてないんスね、ボク」

ボクはちょっとイジケてみせた。

「だって、イツキってスゴいSだもん」

そう言って香奈さんはひとり爆笑していた。

「そんなことないっしょ」

ボクは反論してみたが

「んにゃ、ドが付くSだにゃ」

とわけわからん言葉で却下された。
彼女は上に羽織るものとってくる、と言って二階に上がっていった。
ボクは居間にひとり残った。
不意にあの雨の晩のことを思い出し、ひとりニヤケてしまった。
そのニヤケ顔を戻ってきた彼女に見られ

「なにアンタ、ひとりでニヤケてんの?キモイやつね」

と、容赦ない一言をあびせられた。
ボクは声を大にして言いたかった。

香奈さん、アナタこそ、めちゃくちゃSでしょっ!!


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